中城ふみ子が受け取った文学史に残るラブレターの真相
この本では12人の文学者を取り上げ、かれらの恋愛と結婚のドラマの真相を追いかけている。作家は作品がすべてで私生活は関係ないという人と、好きな作家のことは何でも知りたいという人がいると思うが、私は後者で、作品と作家の間を往ったり来たりしながら楽しみたいと思うタイプである。
たとえば乳がんのために、昭和29年に31歳で亡くなった中城ふみ子。乳房を失ってなお、やむことのない恋情と官能を大胆に詠った歌集『乳房喪失』でセンセーションを巻き起こし、毀誉褒貶にさらされた美貌の歌人である。若いときから私は彼女の歌のファンだった。
ふみ子が最晩年、『短歌研究』の編集長だった中井英夫(のちに日本三大奇書のひとつとされる「虚無への供物」を書くことになる)と病床から手紙のやりとりをしていたのを知ったのは最近のことである。中井の没後に公表された往復書簡は切なく美しく、その文学性の高さにも驚かされた。とくに中井が書いた手紙は、文学史上最も美しく感動的なラブレターといっていい内容である。
だがまてよ、と私は思った。中井は女性を恋愛対象としない人だったはずだ。一方、中城には死の直前まで年下の恋人がおり、その彼を詠んだ歌も多数ある。じゃあこの二人の関係はどんなものだったのだろう……。そんな疑問から出発して取材したのが、本書に収録した「中城ふみ子 恋と死のうた」である。
このときの取材では、中井に宛てた中城の手紙の現物を見ることができた。私は歴史に関するノンフィクションを書いてきたこともあって、一次資料を直接手に取って見ることを最大の喜びとしている。
この本の取材では、ふみ子の書簡のほかに、「夏の花」などの原爆文学で知られる原民喜が鉄道自殺直前に書いた遺書や、「情痴俳人」「娼婦俳人」と呼ばれ、33歳で消息を絶った鈴木しづ子の数千句におよぶ原稿など、多くの直筆資料を手に取って読むことができた。ときをさかのぼって作家の人生に立ち会ったようななまなましさが、読者にも伝わればいいのだが。
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