2005.09.20 インタビューほか

ペンと筆が紡ぐ平安の闇
夢枕獏×村上豊

「本の話」編集部

『陰陽師 瀧夜叉姫』 (夢枕獏 著)

――このたび『陰陽師(おんみょうじ)』の単行本としては七冊目となる『瀧夜叉姫(たきやしゃひめ)』が刊行されますが、夢枕さんの文章に村上さんの挿絵というコンビも、もう十九年も続いているわけですね。

夢枕 ああ、もうそんなにお願いしているんですね……十九年前というと、僕はまだ三十五歳でした。

村上 でも、そんなに長くやらせていただいているのに、なかなか接点がありませんね。

夢枕獏(ゆめまくら・ばく)1951年生まれ。神奈川県小田原市出身。東海大学日本文学科卒業。77年、「奇想天外」誌に「カエルの死」を書いてデビュー。以降、「陰陽師」「魔獣狩り」「餓狼伝」などの人気シリーズをはじめ、様々な分野で広範な読者を魅了している。

夢枕 そうですね。だから今日は、せっかくなので村上さんの絵についていろいろとおうかがいしたいんです。村上さんが『陰陽師』で描いてくださる妖怪は、やっぱりいろんな資料を参考にして描かれるのですか?

村上 資料は昔の絵巻物くらいしかないので、そこから自分で想像して描くということが多いですね。できるだけ嘘っぱちにはならないように気をつけています。いかにも本物らしく描くというのが、その絵描きの力量なのかなと。だって化け物なんて、まずお目にかかったことありませんし(笑)。ただ、自分としては、いかにもおどろおどろしいものは、あんまり描きたくないというのが本心で。

夢枕 村上さんの妖怪はみんな可愛いというか、愛嬌があって、個性的ですよね。

村上豊(むらかみ・ゆたか)1936年生まれ。静岡県三島市出身。三島南高等学校卒業。60年、週刊サンケイの連載小説の挿絵でデビュー。以後、挿絵、絵本制作で活躍。61年講談社さしえ賞、83年小学館絵画賞、98年菊池寛賞をそれぞれ受賞。画集『墨夢』など。

村上 じつは僕ね、意外とそういう世界は好きなんですよ。ほんとに怖いのは、何もないことのほうだと思うので。たとえば子供の頃、何か出るぞ出るぞといって、家の廊下の障子をパッと開くと何もいない。そういうほうが怖かった。

夢枕 僕の家も昔は古かったんですけど、やっぱり怖かったですね。

村上 やっぱりトイレが怖いでしょう。

夢枕 そう。水洗じゃないし、トイレの明かりって暗(くら)ーいんですよね。だから子供の頃は戸を開けて入っていました。

 村上さんの絵は墨で描かれているものが多いですが、筆と墨を使ってあれだけ自由な線を引くことができるというのが、すごく不思議なんですけど、先生につかなかったことがよかったんですかね。

村上 そうだと思います。美術というのは、別に墨絵ではなくて油でも日本画でも、先生につくとみんな先生と同じような絵を描かざるを得ないというか。僕は美術学校に行っていませんが、美術学校へ行くと、いい点数をもらおうと思うと、どうしても先生のお気に入りの絵と同じパターンになってしまうようですね。

夢枕 やっているうちに引き返せなくなって、それが自分の個性のようになってしまう。

村上 そう。書でも同じなんですよ。僕なんか、「面白い字を書きますね」といわれるけど、書道は小学校から中学校のときに習っただけで、まだ完璧に形を決められない前に脱線して横のほうに行ってますから。

夢枕 たとえば『陰陽師』のタイトル文字を書くときなんかは、頭の中で考えたりせずにいきなり書いてしまうものなんですか?

村上 ええ、いきなり書きます。だから、あ、ちょっとこの線は左のほうへ行き過ぎたなと思ったら、次の字のときにちょっと右のほうへ軌道修正したりして。

夢枕 絵もだいたいそうなんですか?

村上 ええ、絵も同じです。

夢枕 まずさっといっちゃってから、その線に責任をとって次はこういくという感じで?

村上 そうです。僕がデッサンをしないでいきなり描く理由はそれなんですよ。そういうことで味が出るというか。たとえば人間の身体も、好きなところから描きます。人によっては、顔から描くと決めている人もいるかもしれませんが。

夢枕 僕の知っている漫画家はだいたい顔の輪郭線とかから描きますけどね……。

村上 僕はいきなり描いて、左へぶれたら右へ直していくというような……そういう描き方です。それでどうしてもうまくいかなくなったら、それはボツにしますけど。いつもぶっつけ本番というか。絵本の仕事で、よくラフを見せてくれといわれるんですけど、たとえ下描きでも、一回描いちゃうと同じような絵をもう一回描くというのはいやなんですよ。だから、すいませんけどラフは描きませんと。で、できたものに関して悪かったら全面的に描き直すし、その時点で手直しします、というんです。これまでも、よっぽどの間違いがない限り描き直したことはないです。

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陰陽師 瀧夜叉姫 上
夢枕獏・著

定価:本体629円+税 発売日:2008年09月03日

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陰陽師 瀧夜叉姫 下
夢枕獏・著

定価:本体629円+税 発売日:2008年09月03日

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