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歴史を動かした無名の女たち

歴史を動かした無名の女たち

「本の話」編集部

『孫文の女』 (西木正明 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #ノンフィクション

西木 望めばたいていのものが手に入るいまの日本にわれわれはいるわけですが、自分たちの生活を振り返る意味でも、こういう先祖たちの人生というのを見てもらえたら嬉しいですね。ここに出てくる人たちは庶民といってもかなり特殊な庶民ではありますけど、あの時代の、特に女たちのある種の気概というかね。そういうものを感じ取ってもらえたら。

保阪 彼女たちはだいたいが明治十年代の生まれですよね。われわれのお祖母さんの世代にあたるのかな。僕は、「ああ、こういう女性というのは見たことがあるなあ」と思ったりしました。三十年も四十年も前になるけれど、それこそなけなしの金を抱えて新宿の妙な所に飲みにいくと、明らかにそういうことをやっていたと思(おぼ)しき老女がいましたね。本人はもちろん言わないけど。

西木 保阪さんと私はちょうど同じ世代ですものね。

保阪 西木さんは昭和十五年生まれですよね。

西木 そうです。保阪さんは。

保阪 十四年の十二月。ほぼ同じですね。

西木 私はそれこそ、戦後民主主義が始まって間もない、もっと具体的にいうと、国民学校から小学校に切り替わった第一期生なんです。戦後のアメリカナイズされた教育を受けて育ったくちなんですけど、まだあの頃は小中学校の先生は、戦前からのいろんなものをいっぱい引きずってましたね。いまでもよく覚えているのは、授業の初めと終わりに、必ず教科書をおしいただいて拝んでいたんです。

保阪 僕は北海道だから、そういう意味では革新系が無茶苦茶強かった。でも僕の親父は数学教師でしたし、保守的でしたね。あれは小学校四年ぐらいですから、昭和二十三、四年ですけどね、作文を書かせる授業があって、陸軍大将になりたいと書いた同級生がいるんですよ。そしたらね、教師がそいつをぶん殴った。僕はその教師をいまでも許せないなあ。西木さんはご長男ですか。

西木 長男です。

保阪 そうですか。上がいるといないとでだいぶ違いますよね。僕もいないけど、上にいる友人の話を聞くと、兄貴は海兵へ行きたがっていたとか何とか、そういう話をするでしょう。着るものも違うんですよ。お下がりを着るか、新しいものを着るかで。いや、僕が何で昭和史に興味があるかといえば、学者の人たちはすぐ日本帝国主義とか軍国主義なんて言うじゃないですか。その考えに僕は反対ではないけれども、それだけで歴史を括ることは違うと思うんですね。

西木 ええ、ほんとにね。何とか主義というものがついた瞬間に、歴史のある一面が非常に画一的になってしまって、一気につまらなくなりますよ。

保阪 日本の学者は、文献は無茶苦茶読むんです。でも、文献というのは、いってみれば、作られた二次的作業の世界でしょう。われわれは足で調べて、人と信頼関係を作って証言を得たりするわけじゃないですか。学問的なフィールドワークをきちんと踏んでいないといわれて頭に来たこともあるけど、それはそのとおりで、逆にそれを名誉と考えないと日本の史実は埋もれていくだけですよ。

孫文の女
西木正明・著

定価:本体705円+税 発売日:2008年02月08日

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