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災害報道と小説の可能性――篠田節子×石垣篤志

災害報道と小説の可能性――篠田節子×石垣篤志

「オール讀物」編集部

篠田節子(『冬の光』著者)/ 石垣篤志(週刊文春記者)

出典 : #オール讀物
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

篠田 取材メモを拝読しましたが、このメモは覚書のつもりで書かれていたものなんですか?

石垣 そうですね。誌面作りが原発事故や東京電力、国の対応という方にシフトしていって被災地の現地ルポがなかなか掲載されなくなってくるんです。毎日見聞きする情報量がものすごいけれども、それをアウトプットできる機会がないので徐々に書き始めたという感じでした。

篠田 私も時間が経つにつれて報道が福島や原発にシフトしていくのは感じていました。その後、南三陸の町などがどうなっているのか、すでに終わってしまったかのように、私たちにはさっぱり分からない。

石垣 岩手、宮城、福島の三県をずっと回っていたんですけど、記事で取り上げられなかった話は本当にたくさんありました。全国の自衛隊、消防や警察、ボランティアの方たちもどんどん集まってきて、生存者を探して、がれきをどかして道を作ったり、物資を運んだり、皆さんそれぞれ頑張ってらっしゃるんですよ。僕たちはそれを伝えなきゃいけないんですけど、聞いたものを何も出せないとなると、ただの冷やかしと同じなんじゃないかって、すごく悩んで自発的にメモを書き始めました。

篠田 先日、外国メディアが作った東日本大震災のドキュメンタリーをテレビで見ました。その時の現場の映像と音声を時系列的に並べたもので、余計なコメントやナレーションが無いために、むしろ災害の実像を正確に伝える内容となっていました。こういったものは、日本のテレビ局や出版社では諸般の事情があって作れないのかなと感じていました。

石垣 被災地には外国メディアもたくさんいました。メディア関係者ではないのですが、岩手県宮古市に取材に行った六月、ある外国人と知り合いになりました。僕の車が亀裂に落ちたのを助けてくれたんですが、秋田県でもともと英語の教師をしていた人だそうです。その方はカナダに帰国していたのにニュースを見てわざわざ戻ってきて、被災地を回っていました。その方が「自分がいた秋田の学校は、修学旅行どこ行くかで揉めている。でも、これだけのことが起きているんだから、修学という意味で、もっと被災地というものを子どもに見せるべきだ」と言っていて、もっともだなと思いました。

篠田 衝撃は受けるでしょうが、見せておくべきでしょうね。ところで石垣さんの膨大な取材記録ですが、見事に災害の実像が浮かび上がってくる。物語化されないからこその価値で、そのあたり、記者魂で、作家を名乗った瞬間に書けなくなる。商業メディアとしては世間の関心のあるところや、読者が求める情報を中心に提供することで、せっかくの貴重な記録の大半を捨てていくというのが分かりました。けれどこうしたものは孫子の世代に伝えていかなければならないものだと思います。何が一番問題なのかが分かってくるのは、これから十年後、あるいは百年後というスパンで考えないと。ぜひ資料としてまとめて出版、保存し、せめて全国の図書館に置いてほしいです。

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