インタビューほか

災害報道と小説の可能性――篠田節子×石垣篤志

「オール讀物」編集部

篠田節子(『冬の光』著者)/ 石垣篤志(週刊文春記者)

天災を前にして、人は何を思い、どう行動するのか。 震災を現場で取材した記者と、震災を作品の中で描いた小説家がその目に映った未曾有の大災害を語る。

篠田 職場や学校、地域社会など、だれでも家庭外のどこかに所属していますから、家族といっても、知らない一面があって当然ですが。それでも震災取材というのは、やはり家族に気楽に伝えられない厳しさ、重さを伴うものだったでしょう。

石垣 そうですね。物語の中で康宏が刃物を研ぐ描写が出てきますが、読んでいて自分も真似したくなりました。普段こうやって人の半生を探るようなことを仕事にしているので、本質を見失わないよう、自分のアンテナなり感性みたいなものを研ぎ澄ませておかなければ、とも解釈しました。

篠田 ボランティアを終え帰京した康宏は虚無感にさいなまれて四国遍路を始めます。被災地を見て抱いた、自分には帰る家があるという罪悪感や、愛人であった女性の死への思いなどと、自分自身の気持ちに折り合いをつけるためですが、同時に、お遍路には追善供養という大義名分がある。一方この主人公のように、常に目標があって、達成しては次の目標を設定して生きてきた男性には、八十八箇所を回るミッションは性に合っている。ところがそれで本人の心の問題が解決されていくわけではなくて、かえって葛藤が深まります。

石垣 九九年の池袋の通り魔殺人で娘さんを失ったお父さんも同じことをおっしゃっていました。あの日あの場所にいかなかったら、あの時間でなかったら、ありとあらゆる「たら」、「れば」が渦を巻き、娘の育て方にまで遡って自問自答をしてしまうんだと。それでお遍路さんをやってみたけれども、気持ちが収まることはなかった。それは生涯続くだろうとおっしゃっていました。もちろん救いになる人も居るとは思いますが。

篠田 そうですね。実際に行ってみると宗教的空気はあまり無いですね。宗派と関係なく普通の菩提寺が札所になっていたり。宗教が商売と結び付いて一大産業になっている面もあってそれは発見でした。

石垣 小説ではラストに明るいきざしも見えます。

篠田 お遍路さんをして、宗教的境地にひたるには主人公は知性的すぎる。不信感、希望、怒り、感謝と心が乱れ、一人の女性と出会い、最後の通過儀礼を迎える。その女性と別れた後は、こだわりを全部捨てて、あとはもう死に向かって歩いていくだけの、本来の巡礼、というか、自然な存在になって、生と死の境も越えていく。そのあたりを希望の光と見ていただければ、うれしいですね。

――最後に、震災から五年経った現状をどうご覧になっているかお話しください。

篠田 私自身は被災地に行っておらず、ここで色々なことをコメントできる立場にはないんです。ただ、東日本大震災は、引き続き私たち自身が直面している大きな課題だと感じます。例えば首都直下型地震や異常気象の問題は秒読みです。他人事で「大変に悲惨だった。かわいそうだった」ではなくて、明日自分自身の身の上に起こる可能性を念頭において、判断し行動していくべきと考えています。

石垣 世の中で起きているニュースを追いかけるという仕事内容は、基本的には変わっていません。けれども、四カ月弱被災地にずっと通い続けたことは大きな糧になっています。今後も、機会を作って取材を続けていきたいと思います。

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石垣記者の震災取材記録 抄録
特集「3.11から5年 週刊文春記者の見た東日本大震災・取材メモから」

冬の光
篠田節子・著

定価:本体1,650円+税 発売日:2015年11月11日

詳しい内容はこちら

四国遍路の帰路、フェリーから身を投げた父は二十年以上も家族を裏切っていた。家庭にも地位にも恵まれていたのになぜ愛人を持ったのか。理由を求めて次女の碧は父の遍路を辿る。

オール讀物 2016年3月号

定価:980円(税込) 発売日:2016年2月22日

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