そんな〈私〉があれよあれよと降霊会へ引き寄せられていく導入がまず面白い。
高原の家。秋の雷。庭の大木の下に蹲(うずくま)っている女――その闖入者の顔が〈私〉の夢にくりかえし現れる女のそれと同じであるのがわかった段階で、読み手は早くもこの妖しい世界に囲いこまれている。
女を訝(いぶか)り、霊的な話題を避けようとする〈私〉も、「会いたい人はいませんか」の問いには抗えない。
会いたい人がいたからだ。
キヨ――一度目の降霊会で〈私〉が再会を望んだ元級友の生涯はじつに切ない。
遡ること半世紀前、小学三年生だった〈私〉の前に現れた転校生。戦後復興期の教室を埋める五十人の子供たちの中で、キヨは明らかに浮いていた。体が小さい。陰鬱。無口。級友たちの本能的な嫌悪感をかきたてたのは、しかし、それら表層の奥に覗く異質さだった。
まわりの子供たちとは決定的に何かが違う自分を取り繕うように、キヨは多くの嘘をつく。「父親は銀行員」「家は高台にある」「コリーを飼っている」。見えすいた虚構にしがみつく転校生に暗い興味を募らせる〈私〉だが、徐々に偽りがほつれ、真の姿が明らかになって間もなく、キヨは忽然とこの世を去る。
なぜキヨはあれほど異質だったのか。なぜ死なねばならなかったのか。降霊会で露わになるのは主にこの二点だ。
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