男も女も、大人も子供も、老いも若きも、胸にさまざまな「情」を抱き、それに振りまわされ、よろめくように生きていく。
山本周五郎の短編世界では、その姿が、時に一筆書きのように流れるような筆致で、時に家を建てる大工のような精密な組み立て方で、それぞれ描かれていくことになるのだ。
たとえば、「落ち梅記」における武士の、同輩への友情と、許婚への断ち切れない愛情との葛藤。「人情裏長屋」における、浪人の、赤ん坊に対する人情が愛情に変わっていくプロセス。「かあちゃん」における、長屋住まいの一家の、究極の人情ともいうべきものの有り様。「なんの花か薫る」における、岡場所の女たちの、若い武士に対する好意が憎悪に変わる瞬間。「あすなろう」に登場してくる兄の、妹への愛情とその妹のろくでなしの男への激しい恋情との行き違い。「落葉の隣り」における、幼なじみ同士の友情と入り組んだ愛情の歴史。「茶摘は八十八夜から始まる」における、自らも痛みを抱いた武士の、落魄した者への労りの情とそれによって甦る誇りの存在。「釣忍」における、一匹狼の魚屋の、親子や兄弟の情よりも妻への情を取ろうとする覚悟……。
この「山本周五郎名品館」における『寒橋』の一巻もまた、さまざまな「情」が乱反射する、「情」の万華鏡とも言うべきものになっている。
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