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書き手の愉しみ、読み手の愉しみ――馳星周が挑んだ新境地とは?

書き手の愉しみ、読み手の愉しみ――馳星周が挑んだ新境地とは?

文:村上 貴史 (書評家)

『アンタッチャブル』(馳 星周 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『アンタッチャブル』(馳 星周 著)

 後に「暗殺者グラナダに死す」と改題する短篇でオール讀物推理小説新人賞を受賞して八〇年にデビューした逢坂剛は、翌年、公安警察に着目した『裏切りの日日』という第一長篇を発表し、その後も、続篇となる『百舌の叫ぶ夜』(八六年)や、スペインを舞台とする冒険小説『カディスの赤い星』(八六年)などを発表し、冒険小説やハードボイルドの書き手として知られるようになる。そんな彼も『しのびよる月』でコミカルな警察小説を書き始め、シリーズ化までしてしまう。ちなみに『しのびよる月』の刊行は九七年。馳星周のデビュー作『不夜城』(九六年)が直木賞候補になり、吉川英治文学新人賞を獲得し、日本冒険小説協会大賞の国内部門を獲得したのも、九七年のことだった。

 馳星周が本書執筆にあたってこれらのコメディを意識したかもしれない、というのは所詮解説者の“妄想”だし、もしかするとドナルド・E・ウェストレイクのシリアス/コメディなのかもしれないが、これらの先達の作品からも、やはりのびのびと愉しんで書いている感触が伝わってくる。それを味わえることは、やはり読者としても愉しいことなのだ。何度愉しんでも、やはり心地よい。

文春文庫
アンタッチャブル
馳星周

定価:1,155円(税込)発売日:2018年07月10日

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