- 2018.07.20
- 書評
書き手の愉しみ、読み手の愉しみ――馳星周が挑んだ新境地とは?
文:村上 貴史 (書評家)
『アンタッチャブル』(馳 星周 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
■公安&公安
さて。
この『アンタッチャブル』は、なんだかんだで公安警察の小説でもある。馳星周が本年世に送り出した『蒼き山嶺』(一八年一月刊)も、そして『パーフェクトワールド』(一八年四月刊)も、同様に公安警察の小説であった。一五年に刊行された『アンタッチャブル』の今回の文庫化を含め、これら三作品が二〇一八年前半に並んだのは、おそらく偶然なのだろう。なにしろ『パーフェクトワールド』という文庫本上下巻の作品は、新刊ではあるが、『週刊プレイボーイ』二〇〇五年八月十六日号から〇六年八月七日号に連載された作品なのだ。しかしながら、この偶然を通じて、我々は馳星周という作家が、幅広い作品を書く才能を備えていることを、公安警察を共通項として、しっかりと味わうことが出来るのだ。嬉しい偶然である。
まず『蒼き山嶺』は、登場人物の数を徹底的に絞り、また、舞台を後立山連峰に絞った山岳冒険小説である。その絞り込まれた登場人物の一人が公安警察官だ。主人公は、その公安警察官になる人物と大学時代をともに過ごした男である。山岳遭難救助隊から外れることになったことをきっかけに長野県警を辞めて、白馬村観光課の顧問をしながら、山岳ガイドをしている。その二人が、大学卒業の二十年後、山で再会し、そして“敵”と雪山と己の体力と闘うことになるという作品だ。
もう一方の『パーフェクトワールド』は、一九七二年の返還を目前に控えた沖縄が舞台の大長篇。米国にも日本にも支配を委ねず、琉球独立に向けて動こうという一派を、一人の若者を中心に描きつつ、沖縄生まれで本土育ちの公安警察官が沖縄に潜入し、現地で密かに情報を握り、それを私利私欲で冷酷に“利用”していく様を描く。純粋な心(目指す方向はともかく)に悪を鮮やかに絡みつかせた暗黒小説で、まさに馳星周らしい一作である。
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