
「野分」
又三郎は藩主の庶子だったが、生まれ落ちると家臣の手に渡され、その二男として育てられることになった。ところが、藩主の正嫡である男子が次々と死んでしまったため、又三郎が世継ぎ候補として浮上することになる。
しかし、ちょっとしたことから植木職の老人とその孫娘と知り合い、交流を重ねていくうちに、武家の生活というものに嫌気がさしてくる。
そして、ついには、武家の生活を捨て、心惹かれるようになった孫娘を妻に迎え、町住まいをして生きたいと思うようになる。
だが、どうしても世継ぎにならざるをえなくなったとき、植木職の老人に言う。町家の娘を大名の正室とすることはできないだろう。しかし、自分は彼女しか妻にする気はない。側室という名目にはなるかもしれないが、彼女ひとりを愛しつづけるので、自分にくれないだろうか。
それを聞いて、植木職の老人は驚くべき行動に出る……。
これは江戸っ子の「意地」を描いたものとも言えなくはないが、あえていえば人間としての「倫理」を描いたものと言うべきもののようにも思える。
――自分のために人様をかなしませてはならない。
だが、その潔い「倫理」は、もうひとつの、深いかなしみを生むことになるのだ。
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