
「野分」
又三郎は藩主の庶子だったが、生まれ落ちると家臣の手に渡され、その二男として育てられることになった。ところが、藩主の正嫡である男子が次々と死んでしまったため、又三郎が世継ぎ候補として浮上することになる。
しかし、ちょっとしたことから植木職の老人とその孫娘と知り合い、交流を重ねていくうちに、武家の生活というものに嫌気がさしてくる。
そして、ついには、武家の生活を捨て、心惹かれるようになった孫娘を妻に迎え、町住まいをして生きたいと思うようになる。
だが、どうしても世継ぎにならざるをえなくなったとき、植木職の老人に言う。町家の娘を大名の正室とすることはできないだろう。しかし、自分は彼女しか妻にする気はない。側室という名目にはなるかもしれないが、彼女ひとりを愛しつづけるので、自分にくれないだろうか。
それを聞いて、植木職の老人は驚くべき行動に出る……。
これは江戸っ子の「意地」を描いたものとも言えなくはないが、あえていえば人間としての「倫理」を描いたものと言うべきもののようにも思える。
――自分のために人様をかなしませてはならない。
だが、その潔い「倫理」は、もうひとつの、深いかなしみを生むことになるのだ。
こちらもおすすめ
-
様々な「悲哀」を乗り越える、人間の貴い姿を描いた。周五郎短編は、終わることがない――#1
-
様々な「悲哀」を乗り越える、人間の貴い姿を描いた。周五郎短編は、終わることがない――#3
-
女の、男への。母の、子への。妻の、夫への。様々な「情」が乱反射する周五郎の短編世界#1
-
女の、男への。母の、子への。妻の、夫への。様々な「情」が乱反射する周五郎の短編世界#2
-
女の、男への。母の、子への。妻の、夫への。様々な「情」が乱反射する周五郎の短編世界#3
-
「意地」を貫き通すなかで光を放ち、一層かがやく、周五郎の世界の男たち #1
2018.05.28書評 -
「意地」を貫き通すなかで光を放ち、一層かがやく、周五郎の世界の男たち #2
2018.05.28書評 -
「意地」を貫き通すなかで光を放ち、一層かがやく、周五郎の世界の男たち #3
2018.05.28書評 -
貞淑な妻の鑑、「性」に翻弄される女――周五郎が描いた、きら星のごとき女性たち #1
-
貞淑な妻の鑑、「性」に翻弄される女――周五郎が描いた、きら星のごとき女性たち #2
-
貞淑な妻の鑑、「性」に翻弄される女――周五郎が描いた、きら星のごとき女性たち #3
プレゼント
-
『固結び』山本一力・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2023/01/27~2023/02/03 賞品 『固結び』山本一力・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。
イベント
ページの先頭へ戻る