私の少年時代を振り返ると、本当の意味での図書館は家のすぐ近くにあった貸本屋だったと思う。そこで私は、小学生時代は漫画を読みあさり、中学生になると小説を借りて読むようになった。
読んだのは、主として、松本清張、高木彬光、木々高太郎、水上勉といった人たちの推理小説と、柴田錬三郎、五味康祐、司馬遼太郎、山手樹一郎などの時代小説である。ほとんど一日に一冊の割合で借り、読んでいった。
しかし、この時期の私は、山本周五郎を読んだという記憶が薄い。何作かは読んだはずだが、中学生の私にはあまり面白くないものと判断されたのかもしれない。山本周五郎とは二十代に入ってからあらためて「遭遇」することになる。
その貸本屋という名の図書館で、最も多くの棚を占領していたのは山手樹一郎だった。
私も山手樹一郎の作品はよく読んだ。どれも似たような主人公が登場してきて、同じような展開をするものが多かったが、クラブ活動の激しい練習で疲れたあとなどは、とりわけ山手樹一郎の小説に手が伸びた。