書評

様々な「悲哀」を乗り越える、人間の貴い姿を描いた。周五郎短編は、終わることがない――#3

文: 沢木耕太郎

『将監さまの細みち』(山本周五郎 沢木耕太郎 編)

『将監さまの細みち』(山本周五郎 沢木耕太郎 編)

 これは一九七〇年代に二度ほど映画化されており、双子を萩本欽一、仁藤を坂上二郎が演じたものと、双子を松田優作、仁藤を丹波哲郎が演じたものがあるらしい。

 もし、私がプロデューサーだったら、黒澤映画の常連だった三船敏郎を仁藤に、『椿三十郎』で臆病な武士を演じていた小林桂樹を双子に配しただろう。たぶん、山本周五郎の作品を好んで映画化していた黒澤明も似たようなことを考えただろうが、何かの事情で実現しなかったのではないかと思ったりもする。

 

「つゆのひぬま」

 これも岡場所物の傑作のひとつである。「将監さまの細みち」と「ほたる放生」と「つゆのひぬま」。岡場所物の傑作三作から二作を選ぶことになり、考えに考えた末に、「将監さまの細みち」とこの「つゆのひぬま」を採ることにした。「ほたる放生」を選ばなかったのは、他の巻に似たような構造を持つ作品を収載しているからでもあった。

 深川の岡場所で客を取っているおぶんに若い男の客がつく。ただの客に過ぎなかったが、二度目に来たとき、懐に呑んでいた匕首を預かってあげたところから、深く心に残るようになる。

《「おんなしようよ」とおぶんは云った、「こういうところへ来る人って、みんな同じような感じよ、云うことやすることは違っていても、みんなどこかしら独りぼっちで、頼りなさそうな、さびしそうな感じがするわ、だからこんな、あたしたちみたいな者のところへ来るんじゃないかと思うの」》

将監さまの細みち山本周五郎 沢木耕太郎編

定価:本体870円+税発売日:2018年07月10日


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