剛は月に頼ることなく東へ路をたどって、日光街道へ突き当たり、路地へ分け入って、隅田川の右岸へ抜け出た。あとはまっすぐに上流へ歩を進めればよい。初めての宵の路でも、躰はしっかり路順を覚えていた。
藍に包まれても、灯りの絶えぬ両岸はやはり人家や商家や蔵に埋め尽くされて見え、いくら歩いても河原は見えない。大川橋に通じる広小路の祭りのような人通りも昼と変わらぬどころか、むしろ賑わいを増して、師走の冷気を寄せつけぬかのようだ。
おのずと人波のつくる脈のようなものも拍を強め、いっそう容赦なくまつわり付くのだが、やはり躰に拒む気配はない。
脈は野宮のもやもやと居る流された仏たちの想いとますます重なって、この前にも増して交じりたがる。
剛は、これも同じだと思いつつ、脈に合わせるように足を送る。
喧騒が遠くなり、灯りが絶えて、風の匂いが変わる。
窯の黒煙は見えない。
仕置場の臭いはうっすらとだけれど届く。
そろそろだと思ったとき、突然、眼前に葦原が広がった。
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