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『跳ぶ男』青山文平――立ち読み

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #歴史・時代小説

別冊文藝春秋 電子版22号

文藝春秋・編

別冊文藝春秋 電子版22号

文藝春秋・編

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「別冊文藝春秋 電子版22号」(文藝春秋 編)

 切りのいい二十日の今日、伝えたい。

 伝えられるか、と剛は己れに問う。

 あの志も覚悟もたっぷりの吏僚に、固まり切らぬ腹で、御家を壊すぞ、と言い渡せるか。

 今日、言えるくらいなら、と剛は思う。

 昨日言っているし、一昨日言っている。

 言えなかったから今日に至っている。

 当然、今日も言えぬ。

 このままゆけば、明日も明後日も言えぬだろう。

 ならば、と剛は思った。

 想いを切って、二十三日を待とう。

 そして、二十三日までの今日と明日、明後日は、躰を空っぽにして舞台のことだけで満たそう。

「想いも寄らぬこと」も「ちゃんとした墓参りができる国」も、腹を据えてしばし追い遣る。能でいっぱいにする。

 出雲守殿のようにではないものの、己れとて能の路だけを歩んできた。

 野宮での十年を、もやもやと居る流された仏たちやノミヤの前で役者として生きた。

 跳んで跳んで、跳びつづけた。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版22号
文藝春秋・編

発売日:2018年10月20日

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