サイエンスはいくつかの分野にわけられるが、実験科学とフィールドワークという分類もよく言われるものである。私の専門は細胞生物学、分子生物学という分野であるが、私たちのように実験室に籠り、分子とか細胞とかいずれ目に見えぬものばかりを相手にしている研究者には、例えばゴリラの専門家である山極壽一さんなどと話していると、あるいはその著を読んでいると、フィールドワークのおもしろさと醍醐味に魅了されることがある。羨ましいなあと思うわけである。常に現場に立ち、その現場であくまで自分の目で観察し、先入観を排しつつ、目の前で展開しているものを統べているルール、真理を抽出しようとする。そんな現場で見つけたものの驚きと、その喜びは、文学のフィールドワークともいえるノンフィクションにおいてもまた大きなモチベーションとしてあるものなのだろう。
本書『愛の顚末――恋と死と文学と』は、一二人の文学者を取り上げ、その愛の姿がどのようなものであったか、その愛が作家の作品にどのような意味を持ち、どのような影響を与えていたかを描き出そうとするものである。『狂うひと』が渾身の一冊であったとすれば、『愛の顚末』は愛の諸相を丹念に辿りながらも、作者自身が楽しみつつ書いているという雰囲気もある。
その過程で、時に作者にも予期せぬ発見があって、その興奮が思わずトーンの違いとなってあらわれる箇所がいくつもある。作者の興奮が移って、思わずこちらのトーンもあがる箇所である。ここにもやはりノンフィクションのおもしろさを感じるのであり、なぜ梯久美子という作家がノンフィクションにのめりこんでいるのかを自ずから語っているという雰囲気である。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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