「うるさい! 黙れ!」
岳士は力任せに右拳をそばの壁に叩きつける。鈍い音とともに壁に穴が開き、中の断熱材が露わになる。
『ああ、脆い壁だね。それとも、お前が馬鹿力なのかな。これじゃあ退去するとき、かなり修理費取られるよ』
のんきな海斗のセリフが、さらに神経を逆なでする。
「黙れって言ってるだろ!」
『誰に対してそんなに怒っているんだい? つらい真実を指摘した僕に対して? お前をずっと騙していたお姉さんに対して? それとも、なにも気づかずに、サファイヤとお姉さんの身体に溺れていた自分自身に対して?』
岳士は乱暴に右手で頭を掻く。爪が頭皮を破り指先にぬるりとした感触が走る。しかし、それでも手の動きを止めることができなかった。
この痛みがないと、正気を保っていられなかった。
数十秒後、ようやく頭を掻くのを止めた岳士は、血で濡れた右手で左手首を掴んだ。
「……全部でたらめだ。……彩夏さんから俺を引き離したいお前が考えた作り話だ」
『たしかに僕はあのお姉さんからお前を引き離したいと思っているよ。けれど、いまのは作り話なんかじゃない。間違いなくあのお姉さんは錬金術師、僕たちがずっと追っていた早川殺しの真犯人だよ』
「なんでそう言い切れる!? どこに証拠があるっていうんだ?」
岳士が唾を飛ばして叫ぶと、海斗はどこか得意げに立てた人差し指を左右に振った。
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