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電気も水道もない山奥で暮らす老夫婦が、テレビクルーを大いに焦らせた出来事

電気も水道もない山奥で暮らす老夫婦が、テレビクルーを大いに焦らせた出来事

文:佐々木聰

『ふたりの桃源郷』


ジャンル : #ノンフィクション

『ふたりの桃源郷』(佐々木聰 著)

 リポーターから予定した通りにいくつか質問をすると、じいちゃんとばあちゃんは緊張しながらも、茶目っ気たっぷりに答えてくれた。

「ズームイン」の中継には決まり事があった。コーナーの終わりに東京のメインキャスターから、台本にはない質問をされるのだ。事前の打ち合わせは全く無し。

 この日も全てが順調に進み、あとはその「フリーの質問」を残すだけとなった。当時のメインキャスターは、福澤朗さん。

「おはようございまーす。東京の福澤です……」

 爽やかな声で呼びかけてきた。じいちゃんもばあちゃんも、笑顔で応える。

 

「……ところで、寅夫さんとフサコさん……」

 いよいよ最後の質問だ。

 

「夫婦円満の秘訣は何ですか……」

 

 なんと、あの質問だ。中継現場はざわついた。皆、じいちゃんの《答え》を知っているからだ。15人ほどのスタッフは、離れていても会話ができるように、イヤホンと小さなマイクがついた「インカム」と呼ばれる装置をつけている。そのインカムを通して、みんな口々に囁き始めた。

「どうする、やばいぞ……」と、年配カメラマン。

「じいちゃんに、『バツ』のサインを出します!」と、若手AD。

単行本
ふたりの桃源郷
佐々木聰

定価:1,650円(税込)発売日:2019年10月09日

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