もっと歌舞伎で楽しませたい
大島 なぜか気が付いたら、近松半二の話になってましたけど(笑)。七之助さんが、お三輪ちゃんをもう一度、演る予定はないんですか?
七之助 当分はないと思いますが、いつかまた演じさせていただきたいです。今度はお三輪が御殿に到着する以前の漁師・鱶七(実は鎌足の家臣)の入りからやりたいですよね。
大島 そうするとお客様にも話が分かりやすいと思うんですが、歌舞伎ですとどうしても一場面しかかけづらいのが難しいところです。
七之助 お三輪が登場するまで、お客様をお待たせしていいものか少し心配ですしね。父は歌舞伎座では野田秀樹さんの新作を上演する時でも、絶対に見取り狂言(通し上演でなく一幕ずつを組み合わせて上演するやり方)を最初に入れていました。野田さんの新作を目当てにいつもと違う客層が来るからこそ、前半は古典作品の見取り、真ん中は踊りを観ていただく。「歌舞伎ってこんなに面白いんだ」と知ってほしいからこそ、まるで前菜、スープ、メインディッシュと、歌舞伎のフルコースを組み立てることにすごくこだわっていました。
初代中村勘三郎は役者と同時に座本でもありましたけど、うちの父も同じようにプロデュース能力に長けた人で、芸はもちろんですけど、そうしたところもお客様の心に響いていた。それは僕たち兄弟も考えていかなければならないところですね。
大島 八月納涼歌舞伎では、「伽羅先代萩」乳人政岡という大役に初挑戦されますが、これも玉三郎さんに教えていただいているんですよね。
七之助 昨日(八月五日)が初めての全体稽古で、もちろん何回も稽古して全部覚えて臨んだのですが、もう四苦八苦でした。特にご飯を茶道のお点前に則って炊く「飯炊き」の場面は、玉三郎のおじ様でさえ初役の時は分からなくなったそうで、すごく難しいですが、乳母であり、母であるという政岡の心根を今回も細かく教えていただきました。とにかく奥が深いです。
大島 しかも、政岡の実子・千松を勘太郎君、大敵仁木弾正から命を狙われている若君・鶴千代を長三郎君という兄弟で演じるわけですからね。
七之助 お客様に「叔父が幼い二人の子供たちを守っている」と、最初から観ていただけるのは、ある意味でラッキーですかね(笑)。でも千松が刺される場面で、「涙一滴目に持たぬ 男勝りの政岡が」と義太夫が語るくだりがありますが、勘太郎が「アーッ」と叫んでいるのを聞くと、思わず叔父として涙が出そうになります。
大島 むしろリアルですね(笑)。
七之助 泣いてしまったら、すぐ毒菓子を持ってきた栄御前に、千松が鶴千代の身代わりなのがバレてしまうでしょう(笑)。感情が出ないようにお腹の下に溜め込んで、最後にマグマのように母親の感情が出せたらと思っています。甥のふたりも緊張していて、特に長三郎にいたっては、ああいうしっかりした役は初めてです。本当は、去年の平成中村座の「実盛物語」の太郎吉のような、少しガサツな役が合うんですけど、今回は殿さまの跡継ぎですから大変です。
大島 かぶりつきの席で拝見させていただきます。もちろん昼だけでなく、第三部の「新版 雪之丞変化」も初日に観るのが楽しみなんです。
七之助 三部はびっくりされると思いますよ。道具がまったくない奥までガラーンとした空間で、ちゃんと顔を見せる役者は四人しか出てこない。ザ・古典歌舞伎はこれでなくてはいけないという方には、厳しいお声をいただくかもしれませんが……。
大島 やはり納涼歌舞伎は攻めてきますね。
七之助 チャレンジということは、よく平成中村座やコクーン歌舞伎でも言われましたけれど、父は「俺は江戸時代の鎖国した時代だったら、判官様だけを演じたいんだ」という役者で、本当に古典が好きでした。そこでお客様に楽しんでもらうためには新しいこと――たとえば、もし江戸時代にギターがあったら、歌舞伎役者は絶対に使うよね、といったことを、作家さんたちと話し、とにかくいろんな方に歌舞伎を観てもらうことを一番に考えていました。
玉三郎のおじ様も、お客様に観ていただきたいということは大前提として、今だから出来る「雪之丞変化」があると思われたのかもしれません。あれだけのすごい役者の方が、この間、深夜十二時までお稽古をしていたと聞きました。役者は死ぬまで稽古、死ぬまで修業といいますが、本当に頭が下がりますね。
大島 それを聞いてしまうと、初日しかチケットを取っていないのが悔やまれます(笑)。
七之助 十一月には平成中村座小倉城公演もあります。九州は平成中村座は初上陸なので、どんな風になるか期待しています。
大島 小倉、もう取っています! 楽しみで楽しみで……でも、あんまり遠いところばかりだと大変なので、ぜひ、また名古屋でもお願いします。
中村七之助 最新上演情報
名作漫画と歌舞伎の融合、昼の部・夜の部通しで完全上演!
新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』
12月6日(金)~25日(水)新橋演舞場
原作=宮崎駿(徳間書店刊)
脚本=丹羽圭子、戸部和久
演出=G2
協力=スタジオジブリ
出演=尾上菊之助、中村七之助 ほか
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/604/
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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