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始皇帝は“暴君”ではなく“名君”だった!? 驚きの政治体制とは

始皇帝は“暴君”ではなく“名君”だった!? 驚きの政治体制とは

文:冨谷 至 (京都大学名誉教授)

『始皇帝 中華帝国の開祖』(安能 務 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

『始皇帝 中華帝国の開祖』(安能 務 著)

 人体には血液とそれを流す血管があり、心臓から送られる血液は身体の末端まで届き、末端から血液は心臓に還流する。血液そのものに支障が生じたり、体の隅々まで張り巡らされている血管が詰まり硬化すれば、健康体を維持することができず、ひいては死へとつながる。これを国家に置き換えると、中央集権国家(身体)を創成し維持する(健全な身体を保つ)には、皇帝の命令(血液)が地方(身体末端)に行き届き確実に施行されたかどうかの報告(還流血液)が逓伝システム(血管)にのって確(しか)と機能することで、可能となる。それがどこかで不具合が生じると国家は衰退・滅亡(身体の衰弱と死)してしまう。

 こういった身体にもたとえられる政治制度を完成させたのが秦であり、この制度さえ構築すれば、個人の力量に頼らずとも政治は行える。それが中央集権国家の誕生を可能ならしめた事由であり、そこに秦王朝の傑出性があると言えよう。

 なお、一つ付言しておきたいことがある。それは、皇帝の命令、臣下からの上奏はすべて口頭ではなく、文書でもって執り行われ、また文書の伝達も副本が残されたうえ文書で報告されたということである。文字によって伝達し、文字によって記録が残されることは、検証が可能でありまた責任の所在もはっきりする。文書による行政は、それをおこなう役所と役人の掌握にまことに有効であったのだ。始皇帝は日夜膨大な文書の処理に時間を費やしたとあるのも、あながち誇張とはいえない。

文春文庫
始皇帝
中華帝国の開祖
安能務

定価:902円(税込)発売日:2019年11月07日

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