小川 ものすごく読む人でしたね。でも、父とは違って完全にエンタメ小説寄り。母は逆に。子供にあの手この手で本を読ませようとしてきて、アガサ・クリスティとか、読んでミステリーを解き明かすと五百円くれました。母はミステリーが好きだったんでしょうね。デビュー間もない東野圭吾さんとか宮部みゆきさんの作品なんかも次々読んでましたもん。でも、母は、読んだ本を惜しげもなく捨てるんですよ。それで「ちょっと待って! 読むから」と仕方なくどんどん読んで。母とはよく感想を言い合ってましたね。珍しく父と母、僕の三人が共通して好きだったのは、ジェフリー・アーチャーぐらいかな。『ゲームの王国』は、じつはアーチャーの『ケインとアベル』をイメージして書いたんですよ。誰にも指摘されたことないけど。まあ、それで、そうこうするうちに僕にも読書の習慣がついて。中学の時は図書委員長をやってました。その頃は『ロードス島戦記』読んだり。
彩瀬 千葉附の図書室で!? 同じ本読んでるよ、私たち(笑)。渋幕の図書室も充実してましたよね。中山可穂とかあって、いま思うとあそこには、大人のとびらを開く装置があった。
小川 あー、そうですね! 僕の友達も『蒼穹の昴』を全巻読破したり、みんないろいろ挑戦してた。
彩瀬 村上春樹さんはどうですか?
小川 村上さんは、大学生になる頃に出た『アフターダーク』を読んでのめりこみました。存在を意識したのは『海辺のカフカ』が出たときだったんですけど、その時はSFとかミステリーしか読んでなかったから……ちょうど、僕たちが高校生になった頃に出たのが『海辺のカフカ』でしたよね。
彩瀬 そうでしたね。私は渋幕の図書館に入っていた『ねじまき鳥クロニクル』を読んで、「超怖い!」と思ったのが最初です。自分が安全だと思っているものの皮が剥がれる、その瞬間の気持ち悪さが癖になる感じがありました。
小川 すごいな。彩瀬さんはタフな読み方ができる高校生だったんですね。僕は怖い思いをしたらもうその人の本は読まない。そもそも高校生の僕に『ねじまき鳥~』は理解できなかったと思います。
彩瀬 わからなくてもわかる部分がありますからね。
小川 わかる部分だけ拾って読んでいくという読書ができるようになったのは、僕の場合、大学に入ってからです。