――それと自分が小説を書くこと、そのあいだに相関関係はあると思いますか。
小川 なくはないでしょうね。「なぜ書く?」と問われれば、正直な答えは「それしかなかったから」だとは思いますけど。
彩瀬 うん、あるでしょうね。あとは、自分の理念を世に知らしめたい……とは思わないけど、やっぱり、違う考え方を持った人間同士が気持ちよく生きていける道はあるはず、とか伝えたいことはある気がします。
小川 そうですね。僕も、小説を書くからには世界がよくなってほしいとは思ってます。とはいえ、世界をよくするために小説を書いているかといわれれば、それはちょっと違う。説明が難しいのですが、SFを書くのも、今この世界で生きている僕たちが抱えている悩み、あるいは本当はあるはずなのに見過ごされている問題を、特殊な設定や舞台を立てることでより先鋭的に、より具体的に考えやすくする装置として機能させられるからなんですよね。だから、僕の中ではSFと歴史小説は非常に近い。彩瀬さんもそうかもしれませんが、現実にはない何かの要素に光を当て、世界に加えることによって、現実では言語化しづらい問題をクリアに考えることができる、ということは間違いなくあるので。
彩瀬 その通りだと思います。私は、幻想的な小説については、現実世界の現身だと思って書いてます。デフォルメすることで、何かを見えやすくしている感じ。さっきお話に出た、『別冊文藝春秋』で始めた短篇シリーズは、幻想作品集『くちなし』の第二弾みたいな気持ちではあるけれど、こちらはわかりやすい幻想や奇想ではなく、ふいに別の惑星に叩き落とされたような……まさに「新しい星」のような世界で、それでも人が日常生活を送っていく、そうした瞬間をきちんと書いていけたらなと思っています。
小川 僕も、さっき「それしかなかったから小説を書いている」と言いましたが、小説の存在価値について疑ったことは生まれてから一度もありません。小説でやれることは無限にあると思っているし、これから『別冊文藝春秋』で始める予定のものも、そういう挑戦の一つです。自伝という形式を逆手に取った新しい形式の小説……になるはず。うまくいけば(笑)。