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降格、閑職、病、困った親族、嫡男の死 再起を挑む御曹司の「御奉公」物語

降格、閑職、病、困った親族、嫡男の死 再起を挑む御曹司の「御奉公」物語

文:山内 昌之 (武蔵野大学国際総合研究所特任教授・歴史学者)

『名門譜代大名・酒井忠挙の奮闘』(福留 真紀)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

『名門譜代大名・酒井忠挙の奮闘』(福留 真紀)

 忠挙は父・忠清と同じように、部屋住みでありながら十八歳で四品(従四位下)、二十三歳で侍従に進む。従五位下の浅野内匠頭が決してたどりつけない官位であり、吉良上野介が生涯をかけてたどりついた従四位上左近衛権少将に近い。しかも、城中で詰める部屋は徳川一門と門閥譜代の「黒書院溜」こと溜之間であった。同席は、会津松平(保科)、高松松平、彦根井伊などの名門ばかりである。しかも、「御能初」など重要行事を仕切り、老中に準じて働くために個室も与えられ、諸門の番人が下座して敬意を払うのが常であった。忠挙が寺社奉行や若年寄を経て直に老中に進むことを疑う者は誰もいなかったに違いない。ところが、五代将軍綱吉という傍系から出た専制君主は、「将軍御側」いわゆる側用人を重視し、岡崎どころか松平郷に遡及する門閥譜代の政治を否定する威厳を見せつけなければならなかった。越後騒動なる御家騒動の審理を担当した忠清の責任を追及し、彼がすでに死亡していたので息子の忠挙が逼塞処分を受けたのだ。「君臨すれども統治せず」の家綱を支えた酒井忠清・忠挙は、「君臨し統治す」の綱吉の代には不要となったのである。

文春文庫
名門譜代大名・酒井忠挙の奮闘
福留真紀

定価:1,760円(税込)発売日:2020年04月08日

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