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『呪われた町』こそ、御大キングの真正(神聖)処女長編だ!

『呪われた町』こそ、御大キングの真正(神聖)処女長編だ!

文:風間 賢二 (文芸評論家)

『呪われた町 上 下』(スティーヴン・キング)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『呪われた町 上』(スティーヴン・キング)
『呪われた町 下』(スティーヴン・キング)

 金銭面と時間の余裕ができたからか、キングは長編第二作として『呪われた町』のほかにも同時期に長編を仕上げている。その作品は、『最後の抵抗』か『ブレイズ』(未訳)のいずれかだ。どちらを執筆したのかはっきりしないのは、キングがエッセイやインタビューによって口にするタイトルがまちまちだからだ。いずれにしろ、それら二作品はのちにリチャード・バックマン名義で刊行されることになる。

 ともあれ、キングは『呪われた町』と『最後の抵抗』(あるいは『ブレイズ』)のいずれを次作として刊行すべきかをエージェントにそれぞれの内容を話して相談したところ、即座に『呪われた町』に決定した。理由は簡単、『最後の抵抗』(あるいは『ブレイズ』)はリアルな普通小説で地味(とはいえ、バックマンらしい異色のサイコ・サスペンス)だが、スーパーナチュラル・ホラー『呪われた町』のほうが時流に即していて売れそうだから。

『呪われた町』の原題は’Salem’s Lotだが、当初はSecond Comingだった。辞書によれば、「キリストの再臨」という意味でつかわれる。しかし、キングの妻タビサによる「なんか下品なセックス本のタイトルみたい」(二度イク、とも読める)の発言で却下。そう考えてしまうタビサがかなりヤラしい。そこで編集者が物語の舞台であるJerusalem’s Lotを提案。だが、それだと宗教本(聖地エルサレム)と勘違いされそうだということで、省略形の’Salem’s Lotになったしだい。

 ジェルーサレムズ・ロットは町の名前で、そこの住民は略してセイラムズ・ロットと呼んでいる。つまり、本書の真の主人公はセイラムズ・ロット(ジェルーサレムズ・ロット)というスモール・タウンそのものなのだ。メイン州にあるこのジェルーサレムズ・ロットは実際の地図には存在しない。

 そう、キング・ワールドでおなじみの架空の町キャッスル・ロック(『デッド・ゾーン』、『クージョ』、『ダーク・ハーフ』、『ニードフル・シングス』など)やデリー(『IT』、『不眠症』、『骨の袋』、『ドリームキャッチャー』など)の雛形(ひながた)がジェルーサレムズ・ロットである。

 本書の前半三分の一は、このスモール・タウンについてと、そこの住人についてのさまざまなエピソードに費やされる。まず本書は、アメリカ文学伝統のスモール・タウンものに棹(さお)さす作品である。

文春文庫
呪われた町 上
スティーヴン・キング 永井淳

定価:1,067円(税込)発売日:2020年06月09日

文春文庫
呪われた町 下
スティーヴン・キング 永井淳

定価:1,045円(税込)発売日:2020年06月09日

文春文庫
シャイニング 上
スティーヴン・キング 深町眞理子

定価:1,034円(税込)発売日:2008年08月05日

文春文庫
シャイニング 下
スティーヴン・キング 深町眞理子

定価:1,012円(税込)発売日:2008年08月05日

文春文庫
ザ・スタンド 1
スティーヴン・キング 深町眞理子

定価:943円(税込)発売日:2004年04月06日

文春文庫
ザ・スタンド 2
スティーヴン・キング 深町眞理子

定価:943円(税込)発売日:2004年05月11日

文春文庫
ザ・スタンド 3
スティーヴン・キング 深町眞理子

定価:943円(税込)発売日:2004年06月10日

文春文庫
ザ・スタンド 4
スティーヴン・キング 深町眞理子

定価:943円(税込)発売日:2004年07月09日

文春文庫
ザ・スタンド 5
スティーヴン・キング 深町眞理子

定価:943円(税込)発売日:2004年08月03日

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