- 2020.06.15
- 書評
『呪われた町』こそ、御大キングの真正(神聖)処女長編だ!
文:風間 賢二 (文芸評論家)
『呪われた町 上 下』(スティーヴン・キング)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
アメリカで最初にノーベル文学賞の栄誉に輝いたのはシンクレア・ルイス(一九三〇年受賞)だ。かれの代表作『本町通り』(二〇年)に、「この本町通りは、いたるところの本町通りの延長である」という一節があるように、全米各地に無数にあるスモール・タウンは、のどかで静かな牧歌的世界を背景に家庭と共同体と社会の基盤として機能しながらアメリカの理想と精神とモラルを形成する場である。
表向きはそのように見なされているスモール・タウンだが、実は深い闇を抱えた悪の温床であり、アメリカン・ドリームどころかアメリカン・ナイトメアを生み出しているトポスであることを、先の『本町通り』をはじめとして、シャーウッド・アンダーソン『ワインズバーグ、オハイオ』やソーントン・ワイルダー『わが町』といった純文学にとどまらず、ブラッドベリ『何かが道をやってくる』やアイラ・レヴィン『ステップフォードの妻たち』、そして大ベストセラーにしてTVドラマや映画になって六〇年代アメリカで爆発的な人気を得たグレース・メタリアス『ペイトン・プレイス』などが語っている。
ここで改めて本書のスモール・タウンの名前に注目してみる。ジェルーサレムと名付けられた巨大な豚が柵を破って逃亡し、森の中で狂暴な野獣になったので、そいつ(ジェルーサレム)の縄張り(ロット)には近づくな、といった話に町の名は由来する。聖地ジェルーサレム(エルサレム)が危険な地となった皮肉。その名が簡略化されたセイラムとなると、連想されるのは魔女狩りで有名な町の名である。完全に忌まわしい場所だ。このスモール・タウンは誕生したときから邪悪な場所(バッドプレース)なのだ。ジェルーサレムズ・ロットの歴史を紐解けば、そのことはさらに了解できる。
一七一〇 メイン州南部にピューリタンの入植者たちが町を興(おこ)す。リーダーのジェームズ・ブーンは聖職者だが、〈蛆〉として知られる魔物を崇拝するカルトの教祖となり、信者の女たちをはらませる。
一七四一 当初は〈司祭の休息所〉、のちに〈司祭の秘密の場所〉と呼ばれる村落が付近に作られる。
一七六五 公式に町として独立(このときにジェルーサレムズ・ロットと名付けられる)。
一七八二 邪教集団の教祖ジェームズ・ブーンの子孫ロバートとフィリップ兄弟が〈司祭の秘密の場所〉の近くにチャペルウェイトと称する屋敷を建てる。かれらは当時、ジェームズが自分たちの先祖とは知らなかった。
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