書評

江戸時代の天才囲碁棋士たちは、なぜ命を賭けて闘ったか

文: 趙 治勲 (名誉名人・二十五世本因坊)

『幻庵』(百田 尚樹)

 私は囲碁を六十年近くやってきましたが、つくづく思うのは、囲碁を知らない人に言葉で伝えるのは至難の業だ、ということです。囲碁は、非常に複雑で奥が深い、特殊なゲームです。その世界を知らない人にとっては、はっきり言ってしまえば、ゼロの世界です。たとえルールがわかったとしても、ある程度の力量に達しないと、碁という存在自体が無意味なのです。

 たとえば音楽なら、全くその世界を知らない人でも子供の頃から聴いている人は多いので、言葉で説明されれば、何となくわかります。絵画というジャンルも、絵を見たことのない人はいないので、同様に言葉で説明ができます。同じ盤上のゲームでいえば、将棋は駒に「王将」や「香車」などと書かれているので、将棋について書かれている文章を読めば、役割や動きも含め、盤上で何が起きているかを何となくイメージしやすいかもしれない。

趙治勲さん

 しかし囲碁は、白石と黒石があり、敵と味方があるだけで、あとは何一つわからない。技術的に、「ツケて、ハネて、ノビて、切って」と具体的に書かれていても、プロでさえ棋譜なしに完全に理解するのは非常に難しいのです。このわかりにくさが、囲碁小説を成立させる、高いハードルになっています。

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