書評

江戸時代の天才囲碁棋士たちは、なぜ命を賭けて闘ったか

文: 趙 治勲 (名誉名人・二十五世本因坊)

『幻庵』(百田 尚樹)

『幻庵 上』(百田 尚樹)

 江戸時代は電気もなければ、交通手段も情報も非常に限られていたわけです。その中で、インターネットやAIが発達した現代から見ても、遜色のない、膨大な数の棋譜が残っています。碁打ちの贔屓目で、祖先を大事にしたいという気持ちがあるのは確かです。しかしそれを差し引いたとしても、この作品に登場する先人たちが命がけで─―この時代の囲碁は時間制限なしの打ち掛けが当たり前で、文字通り体力勝負、命がけです。朝から始めて翌日の深夜、明け方まで打つのは日常茶飯事ですから、桜井知達(さくらい・ちたつ)や奥貫知策(おくぬき・ちさく)、赤星因徹(あかぼし・いんてつ)といった、惜しくも早世した天才棋士たちが多くいたのも頷けます─―碁を打ってくれたおかげで、今日の囲碁があるわけです。それは私たち碁打ちにとって、ちょっと想像を絶するほどに奇跡的なことなのです。

 現在の囲碁の世界は、韓国や中国がすっかり強くなってしまい、残念ながら日本の棋士では敵わなくなっています。しかし、韓国や中国の囲碁の歴史というのは、たかだかここ三十年ぐらいのものです。私も韓国や中国に講演などで訪れることも多いのですが、あちらでは碁打ちに対する尊敬の念というものは、あまり感じられません。私の実力が五だとしたら、扱いは二ぐらいのものです。しかし、日本では段違いに尊敬の念を感じます。私が三だとしたら、十くらいの扱いをしてくれる(笑)。これはやはり、本因坊算砂(さんさ)から数えて四百年以上の、日本の囲碁の歴史、文化が大いに関係しているのでしょう。

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幻庵 上百田尚樹

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幻庵 中百田尚樹

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幻庵 下百田尚樹

定価:本体660円+税発売日:2020年08月05日


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