江戸時代は電気もなければ、交通手段も情報も非常に限られていたわけです。その中で、インターネットやAIが発達した現代から見ても、遜色のない、膨大な数の棋譜が残っています。碁打ちの贔屓目で、祖先を大事にしたいという気持ちがあるのは確かです。しかしそれを差し引いたとしても、この作品に登場する先人たちが命がけで─―この時代の囲碁は時間制限なしの打ち掛けが当たり前で、文字通り体力勝負、命がけです。朝から始めて翌日の深夜、明け方まで打つのは日常茶飯事ですから、桜井知達(さくらい・ちたつ)や奥貫知策(おくぬき・ちさく)、赤星因徹(あかぼし・いんてつ)といった、惜しくも早世した天才棋士たちが多くいたのも頷けます─―碁を打ってくれたおかげで、今日の囲碁があるわけです。それは私たち碁打ちにとって、ちょっと想像を絶するほどに奇跡的なことなのです。
現在の囲碁の世界は、韓国や中国がすっかり強くなってしまい、残念ながら日本の棋士では敵わなくなっています。しかし、韓国や中国の囲碁の歴史というのは、たかだかここ三十年ぐらいのものです。私も韓国や中国に講演などで訪れることも多いのですが、あちらでは碁打ちに対する尊敬の念というものは、あまり感じられません。私の実力が五だとしたら、扱いは二ぐらいのものです。しかし、日本では段違いに尊敬の念を感じます。私が三だとしたら、十くらいの扱いをしてくれる(笑)。これはやはり、本因坊算砂(さんさ)から数えて四百年以上の、日本の囲碁の歴史、文化が大いに関係しているのでしょう。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。