- 2020.10.01
- インタビュー・対談
サイゼリヤでバイトする“異色の一つ星シェフ”が、いま絶好調な理由とは? コロナ時代をタフに乗り切る異才に、注目のSF作家・小川哲が迫る
聞き手:別冊文藝春秋
「村山太一×小川哲」別冊文藝春秋LIVE TALK vol.1[ダイジェスト]
いまこそ飲食業界みんなで変われるチャンス
小川 言いにくいのですが、僕も自粛期間中に自炊を始めまして。それまでは毎日外食かウーバーイーツだったのにだんだんこの生活に慣れてきて、もう基本は自炊とウーバーイーツでいいなと思うようになりました。ウイルス対策がうまくいって事態が収束に向かっても、一度ついた習慣はもう戻らないような気がしています。
村山 そう、人の心は戻らない。外食する習慣は確実に減っていくでしょうね。
小川 飲食店にとってはかなりの逆風になり得ると思うんですけど、村山さんはそれについてどうお考えですか。
村山 ビジネスモデルを変えられないお店にとっては厳しい状況になるでしょうね。ただ、僕は、いまこそ飲食業界が変われるチャンスだと思ってます。レストランに行くってフィジカルな体験でしょう? そこにどれだけ付加価値を載せていけるか。僕はよくディズニーランドを例に出すんですが、あの場所がすごいのは、滞在中だけでなく行く前、それから行った後も楽しいことなんですよ。あれを理想とするなら、ただ粛々と料理を出し、それを食べてもらうだけではダメで、どんなストーリーをつくってもてなせるのか。どうしたら、その興奮を持ち帰ってもらえるのか。そこを考える必要がある。持ち帰りに関しては、ラッセではさっきのラビオリをはじめ、これから品数をどんどん増やしていく予定なので、帰宅してからも「これが一つ星の味なんだぜ」と家族やお友達ともう一回楽しんでもらえたらいいなと考えています。
小川 わざわざ行きたくなる体験を演出するということですね。
村山 そうです。あと、いま酒販免許を取ろうとしているんですが、そうしたらワインとお料理と、ラッセの味をフルセットでお届けすることも出来るようになる。それからもう一つ、いまの時期こそやるべきなのが、レストランの「体質改善」だと思っています。
小川 体質改善?
村山 そうです。何度も言うけど、お客さんが最優先で欲しいのは安全と安心です。それならまず、スタッフが健康じゃないといけない。飲食業界には「休むのは悪」という不文律があるんです。一人減ったら他のメンバーの仕事が増える。みんな手一杯なのに、負荷が増えるとイライラして、職場が殺伐とする。翌日、ちくちく責められたり、何より申し訳ないという気持ちもあって、みんな「ちょっと喉が痛いな」なんて思っても出勤しちゃうんです。そういう悪しき習慣を断ち切って、生まれ変わるための仕組みが必要なんです。意識改革ももちろん大事だけど、物理的に、一人休んでも変わらず回せるだけの余力が必要ということです。うちはいま、三人でも回せるように設計してある。
かつてラッセには、一二人のスタッフがいました。徐々に効率をあげ、少人数で営業できるようにしていって、とうとう三人でやれるところまできた。
どうしてそんなことができるようになったのか。それを可能にしたのが、先ほど言った「洗浄の効率化」と、あとはグリストラップという、業務用の厨房に設置が義務付けられているゴミキャッチ装置を改善したことによる掃除時間の短縮。そして、固定費の削減です。徹底して無駄を削ることで固定費を抑え、無謀な収益を目指してスタッフが命を削る必要がなくなった。飲食店って、はっきり言って、サブスクリプション(定期購入)サービスの奴隷なんですよ。
小川 たとえばどんなものですか?
村山 厨房機器のリースやPOSレジ、予約システムの月額使用料から、テーブルクロスや玄関マット、おしぼりの代金まで。家賃とか、店で借りてるトランクルームの費用なども言ってみればサブスクです。このまま、eコマースも既存のサービスに乗っかったら、どんどん無駄を積み上げることになってしまう。
小川 なるほど。
村山 うちでは備品も徹底して買うものを選び抜きます。キッチンペーパー一枚にしても、A社のものは何センチで何枚。B社のものは何枚で、使い心地は……と全部チェックして、一回お金に換算してからセレクトしている。
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