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作家の羽休み――「第22回:本を贈るということ」

作家の羽休み――「第22回:本を贈るということ」

阿部 智里


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 私がエンターテインメントを書く人間だから余計にそう思うのかもしれませんが、本を読んで「ためになる」のは、読者が本気で「面白い」と感じた時のみのような気がしています。そして、その人の年齢や状況、趣味嗜好によって、「面白い」の感度は千差万別です。

 その子の好みを熟知しており、「絶対これが好きなはず!」という確信がある場合は素晴らしい贈り物になると思います。しかし、「勉強になるから」「こういった本を読んで欲しい」などという願いや期待を込めて贈った本が、その通りにいった例を私はあんまり知りません。きっと、絵本でも児童書でも漫画でもライトノベルでもアニメのノベライズでも、その子自身が「読みたい」と思っている本が、その子にとって今一番必要な本なのだと思います。

 あ、そう言えば一冊、忘れられない本のプレゼントがありました!

 高校生の頃、ちょっと体調を崩しまして、部活動と小説執筆の両立が困難になってしまった時期がありました。落ち込んでいる私を心配してくれた両親が、誕生日のプレゼントにと一冊の絵本を贈ってくれたのです。

 それは二木真希子さんの『小さなピスケのはじめてのたび』(ポプラ社)でした。

 小ネズミのピスケが独り立ちをし、自分の居場所を求めてあちこちを旅する物語です。実はこの絵本、小さい頃は大好きでよく図書館で借りていたのですが、大きくなったら題名を忘れてしまい、自力で見つけられなくなってしまったのです。そのことを知っていた母が「ネズミが旅をする絵本」というキーワードで本を探してくれまして、私が読んでいた姿を覚えていた父が、「これに間違いない!」と同定してくれたのです。両親の気持ちと合わせて、久しぶりに再会出来たあの絵本は、今でもわたしの大切な宝ものです。

 本を贈るという行為は、ある意味で「思い出」をプレゼントする、ということでもあるのかもしれませんね。

阿部さんの思い出の本『小さなピスケのはじめてのたび』。
写り込んでいるのは、阿部さんのご実家の猫。

 


©阿部智里

阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。現在は「八咫烏シリーズ」第2部『楽園の烏』を執筆中。

【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc

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