「どのコースにきても簡単にはならない。そんなピッチャーなんて、そうそういませんよ」。リベラのカットボールは鋭く、重い。特に左打者に効果的なその難球を、ここぞ、という場面で打ち砕いた。「(この1本は)なかなか忘れないでしょう。だから、できるだけゆっくり(ベースを)回ろうと……。もったいないじゃん」。球史に輝く抑え投手と、9年連続200安打とシーズン最多安打記録更新を果たしたヒット王の対戦。担当記者としても、忘れられない1本になった。
10月4日の公式戦最終戦の試合後は、自然発生的にマリナーズ選手全員が本拠地球場内を一周した。一団の中心には肩車されたグリフィーとイチロー。
「単純に気持ちのいいチームだった。野球場にきて野球に集中できる。『すごく良くなった』というよりは『正常になった』とするのが正しいのかも。価値観を共有できていることが嬉しかった。そんなことはもう無理だと思っていたから」
2人のスーパースターを取り巻く雰囲気が、2009年マリナーズを象徴していた。
実際にはアメリカに屈している
出場146試合にもかかわらず、225安打は2位デレク・ジーター(ヤンキース)に13本差をつけての両リーグ1位だった。リーグ首位打者争いではジョー・マウアー(ツインズ)に及ばずとも自己2位の3割5分2厘。ゴールドグラブ賞は9年連続、そしてシルバースラッガー賞、リーグ最多敬遠ともに3度目。西地区3位でプレーオフには進めなかったが、イチローとチームがともに翌年以降への手応えをつかんだシーズンに思えた。
約1年前、WBC監督問題について熱く語ったことを思い出させる言葉もあった。それは世界最高リーグで競い合うための気概にも聞こえた。
2009年10月21日、イチロー36度目の誕生日前夜。岩手・花巻東高の菊池雄星が、卒業後そのままメジャーを目指すかどうかが話題になっている。そんな振りに語気を強めた。
「WBCで勝ち、日本人がこちらでたくさんプレーするようになって、『もうメジャーに追いついた』とか、『アメリカに学ぶものはない』なんて空気がある一方で、外国人枠があったり、アマチュアの選手が日本の外に出ないようにする動きがある。それって、実際にはアメリカに屈しているんですよ」
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