何か特徴があったわけでも、明確に同定出来る証拠があったわけでもありません。もしかしたら私の勘違いで、全く違う烏だった可能性もあります。
ですが、私はその感電した烏の遺骸を見た瞬間、あの子だ、と確信したのでした。
餌をやっていたわけでも、名前を付けていたわけでもありません。ただ、一方的に見知ったつもりになった烏が死んでしまっただけの話なのですが、私はなんだかすごいショックを受けてしまって、以来、烏を見る目が少し変わってしまったのでした。
春、満開の桜の枝に留まり、花見をしているかのような姿にほっこりします。
夏、鮮やかなピンクの合歓の花の傍らで、つがいの烏が夕涼みをしている姿にはどきどきしました。
秋、自分の頭より大きな柿を咥えて、重そうに飛んでいく姿を見かけた時は笑ってしまいました。
冬、数少ない餌を奪い合ってか、トンビとドッグファイトを繰り広げる姿には手に汗を握るものです。
怪我した烏に近付いて、ギャアギャア叫ぶ何十羽(もしかしたら100羽以上いたかも?)もの烏に頭上を旋回されたこともあるので、その恐ろしさも分かっているつもりなのですが、それでも、私にとって烏は特別で素敵な鳥です。
キラキラしたものが大好きで、美味しいものを愛し、時に醜く争い、時に狂暴で、時に仲間思い。
――なんだか、妙に人間臭いな、とも思いませんか?
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc
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