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作家の羽休み――「第50回:烏との思い出」

作家の羽休み――「第50回:烏との思い出」

阿部 智里


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 拙作、八咫烏シリーズの1作目『烏に単は似合わない』がこの世に出て、もうすぐ丸10年になります。当初は平安ファンタジーの体でしたので、よく「どうして登場人物が烏なの?」と訊ねられたものでした。この問いには、「別に烏でなくてもよいのでは?」という意味のほかに、「どうしてわざわざ烏を主人公にしたの?」という意味も含まれているように感じます。

『烏に単は似合わない』(文春文庫)

 確かに、日本において、烏はあまりいいイメージを持たれていません。ゴミを荒らす害鳥、死肉をむさぼる怖い鳥、鳴き声も気味が悪い、黒くて不気味な怪鳥――そんな風に考えている方も、いっぱいいらっしゃるのでしょう。

 ですが私は、烏はめちゃくちゃ面白くて美しい鳥だと思っています。

 まず、全身黒一色という時点で最高にクールなのですが、その羽を陽の光の下でよく見ると、深い紫から青、時々明るい緑の光沢を持っていることが分かります。羽自体に色が着いているわけではなく、構造色によるもので、シャボン玉が虹色に輝くように光るわけです。烏の濡羽色とはよく言ったもので、近くで見られるとうっとりしてしまいます。

 私の実家の周辺はやたらと烏が多く、とある神社の鎮守の森では、軽く見積もって100羽くらいの烏が常時見られます。小さい頃は襲われてしまいそうで怖かったのですが、とあるキッカケで、烏に親近感を覚えるようになってしまいました。

※写真はイメージです

 小学校3年生ぐらいの頃だったでしょうか。

 通学路にある塀の上に、よく1羽の烏が留まっていることに気付きました。

 全体的に羽がふわっとしていて、目がきゅるきゅるしていたあの子は、私が近くに寄っても逃げようとしませんでした。今考えると、あの警戒心の薄さは、巣立ち直後の若い烏だったのでしょうね。

 毎日顔を合わせるうちに、「おはよう」「今日は暑いね」などと声をかけるようになったのですが、そうすると不思議そうにこちらを見て首をかしげるので、なんだか可愛く思えてきたのです。

 ところが、今日はどこにいるかな、と下校時にその烏を探すようになったある日――いつもの塀のすぐそばの電柱の下に、小さな黒い影を見つけてしまったのです。

文春文庫
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