――引っ込み思案の少女「給前志音」が高校の吹奏楽部に入部して大会への出場を目指すという「ウインドノーツ」の構造は、ある意味で青春小説の王道ともいえます。どちらかといえば社会派ミステリや時代・歴史小説のイメージが強い松本清張賞に本作で応募したのはなぜだったのでしょうか。
額賀 作品が賞のイメージと毛色が異なることは重々承知しておりました(笑)。この作品は改訂作業の途中で「別册文藝春秋」の「新人発掘プロジェクト」に関わることがあって、担当の方から分量やキャラクターについてアドバイスを受けたんです。そこから主人公の「志音」に関わるキャラクターの新たな女の子を登場させてみたら、とても大きく物語が動いたんです。それを読んだ担当の方から清張賞への応募を勧められました。
――この作品は青春小説の王道を踏まえつつ、実は物語の背後に複雑で絶妙な心理の綾が描かれていますね。たとえばもう一人の主人公「日向寺大志」が学校の屋上で昔の知り合いに「あること」を言われ沈んでいるところに、ある意味で「よりにもよって」の人物がやって来る。読者の心を揺さぶる名シーンだと思います。
額賀 すべてを巧んで書いたわけではもちろんありませんが、あのシーンは絶対に「ああしてやろう」と思って書きました。「大志」のような八方美人の優等生は、実際には鬱陶しくていちばん友達になりたくないタイプですが(笑)。
――引っ込み思案の「志音」と八方美人の優等生の「大志」が、東日本大会出場を目指す日々の中でどのように変化してゆくのかは、本作の大きな読みどころとなっていると思います。あらためて、今回は「W受賞」という華々しいデビューとなりましたが、これからどのような作品を書いていきたいと考えていますか?
額賀 音楽(吹奏楽)がモチーフの物語をもっと書きたいと思っていたのですが、社会人として働き始めて三年経った今は、その経験を生かした社会人の物語も書いてみたいとも考えています。大学の時の先生に「作家デビューできても、数年後に生き残っているのはほんのわずか」とさんざん脅されたので、まずはとにかく生き残れるように、忘れられないうちに「次」を書きたいと思います。作家を目指している友人も沢山いるので、彼らがデビューする時までは、なんとか生き残っていたいですね。