小川 あそこは一番の“谷”ですね。でも、自分の中で「ひどいことをされたんだ」ということがなかなかはっきりしなかったんですよ。「お母さんはいい人で、女優さんで、カッコよくて」と思って、人にもそう言ってたし。
しまお あのときも、人に話してないんですか?
小川 ちゃんとは話してないですね。
しまお じゃ、この件も含めてこの本で初めて言うことがわりと多い?
小川 そうですね。助けを求めた中学時代の友達のお母さんが、私が甘辛く煮たお肉を上にかけた素麺をあんまりガツガツ食べていたら「おうちで出されないの?」と聞いてきて、「ないの。帰ってこないの」と言ったんだけど、「そんなわけないじゃない」って、信じてもらえなかったんですね。
しまお 当時はそういうことにあまり理解なかったんでしょうね。30年ぐらい前には。
小川 今、テレビとかでも「虐待にまわりが注意しましょう」みたいなCMが流れるようになりましたけど。
しまお まわりの人が気づいてあげられなかったのかな? と読みながら思いましたね。
小川 気分が落ち込み切っちゃうんですね。暗く、暗くなって、言う元気もなくなる。心が完全に折れるんです。
しまお そっちのほうが楽になるんですね。
小川 他の人に言えば、解決できる状況だったんでしょうけど……。
しまお そんなにどん底の時の話でも、読むのがイヤになる感じでは書いてませんね。
小川 それは嬉しいです。あんまりどん底にしたくないし、自分でも今は笑い話にしてます(笑)。
しまお ちょっとね、コメディと言うとあれだけど、ホラーコメディみたい。
小川 人に読んでもらうものなので、せめてそうなってると嬉しいです。
しまお おかしみがあるから、お母さまのことを嫌いになりきれないところがある。すごいお茶目じゃないですか、お母さん。やっぱりきれいだし、キラキラしている場面があるから。
小川 そうですね。
しまお とは言え、お母さんのラブシーンを見せられるのはほんと辛かっただろうなと思って、あそこはさすがにけっこう……。
小川 分かっていただけますよね? 女性だから。
しまお いやあ、もう絶対イヤですもん。だけど、そこがやっぱり女優さんってところなんでしょうね。
小川 まわりは止めてもいいと思うんですけどね(笑)。