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<対談>彩瀬まる×小川哲「多彩な子に囲まれて育った十代の記憶」

<対談>彩瀬まる×小川哲「多彩な子に囲まれて育った十代の記憶」

別冊文藝春秋

電子版30号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

はみだした人は愛おしい

小川 作り方はまったく違うのに、彩瀬さんの作品と僕の小説には通底するものがある気がするんですよね。さっきも言いかけましたが、善悪とか、みんなに知ってもらいたいと思っている考え方とか、そういう根っこの部分で。

彩瀬 もしかしたら世代的なものもあるのかもしれませんね。これまで生きてきて抑圧を感じてきたもの、自分たちの世代でちょっとずつほぐしていきたいと思っているもの、そういう問題意識が近いのかも。

小川 そうかもしれません。彩瀬さんの作品には、世間の常識からちょっとはみだしている人がよく登場します。でも、必ず作品内にその人のことを理解している存在がいる。その辺のバランスがすごくよくわかるんです。はみだしきって究極的に孤独な人間を描くというよりは、はみだしてはいても、そのことを認めてくれる人もいる、ということに力点がある。僕もそういう作品を書くことが多いですし、自分自身が、そういうはみだした人を受け止める存在でいたいとも思ってる。

彩瀬 おお……ちょっと意外ですね。というのは、小川さんの小説には、「理解? 何それ」っていうぐらいぶっ飛んだ人物も多いでしょう。小説にはどうしたって、書き手が世の中をどう見ているかという視点が滲みます。私は、『ゲームの王国』を読んで、この作者はなんてドライな人なんだろうと思ったんです。残酷なものをひょうひょうと受け入れていて、近年読んだ本の中ではもうダントツで、砂漠に近いドライさを感じました。

小川 砂漠に近いドライさですか(笑)。

彩瀬 生きること、そもそも世界というのはドライでカオスなものであり、情理が通用しないという前提で書かれている気がして。その一方で、とても抒情的です。なぜこれらが両立できているんだろうと不思議に思いました。個々のキャラクターの内面にきちんと情愛があり、ウェットなシーンだって描かれている。だけど彼らは残酷に、ドライに、次から次へと不条理に殺されていく。救いがない、という意味で、かなり思い切った書き方ですし、そうした苛烈さが小川さんというひとりの人間の中で矛盾なく調和しているのがすごい。なんて大きなキャパシティーを持っている方なんだろうと感嘆しました。

小川 嬉しいですね。気恥ずかしいものもありますが(笑)。

別冊文藝春秋からうまれた本

文春文庫
くちなし
彩瀬まる

定価:682円(税込)発売日:2020年04月08日

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版30号(2020年3月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年02月20日

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  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

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