書評

動物学者が体験した"毒々生物"の知られざる実態とは!?

文: 今泉 忠明 (動物学者)

『毒々生物の奇妙な進化』(クリスティー・ウィルコックス)

『毒々生物の奇妙な進化』(クリスティー・ウィルコックス)

 毒はどうだろう。毒ヘビの毒は本来消化を助ける唾液が変化したもので、毒液を注入する鋭い歯、素早い動き、音を立てずに接近するという技術が相まって、有効な武器となる。コモド島には確かにドラゴンに噛まれた傷が元で死んだとされるスイス人の墓がある。だが、これは傷の手当てが悪かったために敗血症にかかり、死んだようだ。当時コモド島ではレンジャーが生きたヤギを数日おきにドラゴンに与えていた。今では動物福祉の観点から生きているヤギは与えていないが、ヤギは角を使って集まってくるドラゴンと戦う。レンジャーはヤギをロープでほとんど固定し、ドラゴンに食わす。そうしないとドラゴンはヤギの角にやられ大怪我をする。私は3頭のドラゴンに何度も咬みつかれたヤギを村に連れ帰った。腹を裂かれ腸が見えていた。大腿部にも咬み傷を負っていた。木陰につないでいるとき村の人がやってきて「可愛そうに、明日には死ぬだろう」とつぶやいていた。ところが翌日行ってみると気力を回復していた。5日後には傷口が塞がった。押すと腹腔に空気が入っていてボコボコいったが、ヤギは元気になっていた。村の人はこれは神の使いだといって大切に飼うと私に約束した。ドラゴンには毒はまったくないのである。ドラゴンをレンジャーたちの力を借りて押さえつけて唾液を採取し、東京に送って口内細菌の検査をしてもらったが、結果はわずか3種が検出されただけで人間の口の中よりもはるかに清潔ということだった。

毒々生物の奇妙な進化クリスティー・ウィルコックス 垂水雄二訳

定価:本体950円+税発売日:2020年03月10日


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