毒による痛みの生々しさだけでなく有毒動物の進化にも触れ、興味深い話が続くが、ふと筆者が単に面白おかしく記述しているのではないか、オーバーに表現しているのではないかという気がした。この手の本には少々過激に書かれたものが少なくないからだ。しかし、第5章で近年になって有毒動物であるといわれるようになったコモドオオトカゲについての記述を読んで、決してオーバーに表現しているわけではないことが分かった。私は50年近く前にコモド島へ渡り、かなり詳細に調査したことがあるから、筆者の記述が客観的なものだということが理解できたのである。
オオトカゲが棲息するコモド島はナショナルパークであり、ロッジがあり、ドラゴンを見物できる島だ。全長3mが最大クラスで、「大きい!」と思っても計測してみると2.7mだった。かつてドイツの探検隊が3.5mのものを捕獲したという記録があるが、それくらいが最大だろう。ただこんなでかいトカゲが猛毒の持ち主だったら大変だ。だが幸いドラゴンは恐ろしくも悪くもない動物である。確かに容貌は恐ろし気だが、これはトカゲに似た爬虫類が巨大化したものだからだ。トカゲ好きあるいは恐竜ファンは可愛いと言うにちがいない。むしろドラゴンは「爬虫類の弱点をまる出しにした動物」なのだ。彼らは爬虫類であるがゆえに、気温の低い朝が弱い。はいつくばった姿勢で足を引き摺って歩くから、砂や落ち葉がガサガサ、ザワザワ、歩くときにやたらに音がしてうるさい。これでは獲物には逃げられてしまい狩りはできない。走る速さはおよそ時速8~10kmとのろい。走ると急速に体温が上昇するが、爬虫類である彼らの体には冷却装置がついていないから走り続けることはできない。つまり彼らは病気や年老いて死んだ動物を探すしかないのである。
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