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<対談>藤森照信×門井慶喜「東京対談 江戸をリフォームした男」

<対談>藤森照信×門井慶喜「東京対談 江戸をリフォームした男」

別冊文藝春秋

電子版31号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

辰野金吾は建築家という職業そのものをつくった

門井 先生がご研究を進める過程で、辰野のものに限らず、いろんな建物が……いい建物だと思いながらも目の前で取り壊されてしまった、ということもたくさんあったのではないですか。

藤森 それはもういっぱいあります。だから、あまり思い出したくないんですよ。死んだ子の年を数えるようなものですから。私が頑張れば何とかなったかもしれないというような気持もあるから、つらいところなんです。

門井 そうですよね、当事者でいらっしゃるから……。

藤森 責任感みたいなものがあるんです。でも難しいですね、保存を頑張っていたら、きっとそれだけで一生が終わったことでしょう。保存というものは、凄まじいエネルギーが必要なんです。壊そうというのは、「ここをビルにすればもっと儲かる」というような経済的な力ですから、これに抗するというのは大変です。辰野が手がけた東京駅丸の内駅舎が保存・復原工事のうえで残ったのは、本当に奇跡ですね。一時期は壊そうという大きな動きがありましたから。よく残った、とホッとしています。

門井 あの赤レンガの駅舎はとうとう、今度刷新される新一万円札の図柄にもなるそうですね。渋沢栄一が表面で、駅舎が裏面ということです。

藤森 渋沢は辰野のパトロンとして、ずっと支援していましたからね。

門井 渋沢は自邸も辰野につくらせていますよね。

藤森 彼らは精神的に通じ合っていたと思うんです。ひとことで言えば、明治の世に個人で身を立てること、民間という立場でやることへの思いですね。辰野は、イギリス主義的な教育方針の工部大学校で育ったわけですが、イギリスの技術者の理想は、技術を使って会社を、そして産業を興すことです。しかも、個人の職人の力で。政府に頼らず自分でやるというのが基本だから、辰野も三十二歳のときに一度事務所をつくっている。

門井 そうですね。

藤森 その辰野の考えは、渋沢が考えていた資本主義と相通ずるわけです。国の政策とは別に、個人が資本を集め、力をためたうえで会社を興していくのだ、という思想ですね。もちろん当時はなかなか大変です。辰野は事務所を開いてすぐつぶしてしまい、次に独立するのは四十九歳になってから。それでも資金が潤沢だったわけではなかった。事務所に勤めていた方にお話を聞いたことがあるのですが、ある日、辰野さんがバンザイしながらバタバタバタッと、履物もそのままに事務所に入ってきてこう言ったらしいんです。「諸君、これからはちゃんと月給が払えるぞ。東京駅の仕事がついに取れた」と(笑)。やっぱり苦しかったんだと思います。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日

単行本
東京、はじまる
門井慶喜

定価:1,980円(税込)発売日:2020年02月24日

文春文庫
建築探偵術入門
東京建築探偵団

定価:726円(税込)発売日:2014年09月02日

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