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阿津川辰海×斜線堂有紀「特濃ビブリオバトル! 白熱の2万字対談」

阿津川辰海×斜線堂有紀「特濃ビブリオバトル! 白熱の2万字対談」

聞き手:「別冊文藝春秋」編集部

電子版35号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

新本格との出会い

阿津川 今日は私たちがどんなミステリーを読んできたのか、そのあたりを存分に語って欲しいということなので、お尋ねしていきます。新本格ミステリーがお好きといまおっしゃいましたが、一番最初に読んだ新本格作品と、一番好きな作品は何ですか?

斜線堂 問題なのは、どこまでを最初の新本格に含めるかです。はやみねかおる先生の「虹北恭助シリーズはどうなるのか、とか……。

阿津川 そうなんですよね。はやみねかおる作品を含めると、私もそこがスタートになっちゃいます。

斜線堂 新本格という用語を認識したのちに、初めて読んだ作品ということでいえば、島田荘司先生の『斜め屋敷の犯罪』ですね。そして、一番好きな作品は北山猛邦先生の『オルゴーリェンヌ』です。

阿津川 北山先生は昔からお好きだったんですか?

斜線堂 新本格を読み始めた頃に何かのきっかけで北山先生の作品を読んで、理想としていたものがここにあるかもしれないと思いました。世界観の設定だけで一冊の小説になるほど面白いのに、さらにロジックでも魅せてくれるミステリーをやっているというのが、当時の自分にとってパラダイムシフトだったんです。

阿津川 私も北山先生の終末的な世界観が大好きで、最初にものすごく感動したのが『「瑠璃城」殺人事件』でした。こんな設定で本格ミステリーを作れるんだと思って。『オルゴーリェンヌ』も大好きですし、あと『「アリス・ミラー城」殺人事件』も好きです。世界観と大枠の仕掛けだけで贅沢なのに、鍵をいかに室内に入れるかみたいな細かい部分にすごく奇妙なトリックを使っていて。

斜線堂 そうなんですよ! ああいう思いつくようで思いつかない絶妙なトリックと奇想の組み合わせがたまらないんです。解決編で驚かせてくれるミステリーが大好きなので。阿津川先生にとっての最初は何ですか?

阿津川 私はベタですが綾辻行人先生の『十角館の殺人』ですね。中学のときに図書室の司書さんに教えてもらいました。その頃、宮部みゆき先生、東野圭吾先生、伊坂幸太郎先生にはまり、毎日のように学校の図書室に通っていたので、ミステリーマニアな司書さんに「こいつは見込みがある」と思われたんでしょう(笑)。

斜線堂 英才教育を施されたんですね。

阿津川 一番好きな新本格作品というと悩んじゃうんですけど、ひとつ挙げるとしたら『法月綸太郎の新冒険』です。初期の法月先生は一作ごとにまったく違う作風で、『頼子のために』はニコラス・ブレイクやロス・マクドナルド流のハードボイルド、『ふたたび赤い悪夢』はアイドルを扱っていますし、『一の悲劇』は誘拐ミステリーです。このように謎解きの芯の部分は変わらないのに、毎回違う形式で魅了してもらえるのが楽しくて、大好きでした。とりわけ短編が好きで、『新冒険』には五編収録されていますが、ここまで鮮やかな謎解きミステリーが揃うのかという感動があります。もちろん、いまでも法月作品のバラエティの豊かさは健在で、最新刊の『赤い部屋異聞』は早川書房から出ていた名短編シリーズ「異色作家短篇集」の趣さえあります。このシリーズのジョン・コリア「夢判断」(『炎のなかの絵』所収)などは、もろ元ネタですしね。私は「本格ミステリーって何だったっけ?」と悩み始めると、法月先生の作品を読むようにしています。安心するんです。法月先生も心の故郷ですね。

ミステリーの原体験・はやみねかおる

阿津川 その前、もっと広義のミステリーの話となれば、私たち世代は、はやみねかおる先生なしには語れないですよね。小学生でまず講談社の青い鳥文庫に出会い……。

斜線堂 そうですそうです、まずはやみね先生に出会う。

阿津川 同時に石崎洋司先生の「黒魔女さんが通る!!」シリーズとか。

斜線堂 松原秀行先生の「パスワードシリーズも手に取って。

阿津川 はやみね作品で最初に衝撃を受けたのは『魔女の隠れ里』でしたね。「こんなことができるのか、すごいなミステリー」と。「名探偵 夢水清志郎シリーズは何回も頭から読んでいます。

斜線堂 初めて袋とじのある本を読んだのも、はやみね先生じゃなかったですか?

阿津川 『「ミステリーの館」へ、ようこそ』ですね。

斜線堂 赤い袋とじが付いているんですよね。

阿津川 私が『透明人間は密室に潜む』のあとがきでいろいろと過去の名作に言及しているのも、実ははやみね先生の影響なんです。「名探偵 夢水清志郎」シリーズに、亜衣、真衣、美衣という三つ子が出てきて、なぜか亜衣ちゃんが小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』を読もうとする場面があるんです。

斜線堂 はいはい(笑)。

阿津川 同じ小栗虫太郎の「完全犯罪」は読めたけど『黒死館』は読めないという場面が何回も出てきて、はやみね先生がなぜそれを書いたかというと、どこかのあとがきに「ここで『黒死館』を覚えた読者が大人になって読んでくれるかもしれないから」という説明があって、感動したんです。まさに私はその影響で「完全犯罪」を読みましたから。

斜線堂 私もです(笑)。亜衣ちゃんが読めるのなら私も読めるかもって。

阿津川 はやみね先生の作品はその後、講談社文庫に入ったんですけど、その際「〇〇ページのこれは昭和のこういうネタです」とか「これは古典ミステリーのこういうネタです」という説明が付記されていたのが本当に嬉しくて。それで自分もはやみね先生みたいなことができたらと思って『透明人間』のあとがきが生まれました。

斜線堂 私も『人形は笑わない』を読んで「なるほど、物理トリックというのはこうやるんだ」と気づいたことがあります。

阿津川 ミステリーの原体験となると、はやみね先生の名前を出さざるをえないですよね。

斜線堂 新本格ミステリーにしても、やっぱりはやみね先生が入り口だったように思います。はやみね作品を全部読もうとすると、どうしても「虹北恭助」シリーズで講談社ノベルスにたどり着いてしまう。そして講談社ノベルスの巻末に『多重人格探偵サイコ』とかの広告が載っている。ここに載ってるからには面白いんだろうと思ったのですが、はやみねかおるを読む小学生からすると、「植木鉢に植えられた生首!」とか『多重人格探偵サイコ』の広告はすごくえぐくて目が離せなくなる。それで「講談社ノベルスって何なんだ!?」と興味を搔き立てられたんです。

阿津川 私は、いまだに虹北恭助の「本に対する区分は、四種類しかない。『おもしろい本』『おもしろくない本』『おもしろい推理小説』『おもしろくない推理小説』」という一節が心に残っていて、人格形成のレベルで大きな影響を受けました。もちろん推理小説、ミステリー以外の小説も面白いのは知っているし、実際好きで読んでいますけど、やっぱりミステリーは特別であるというか、虹北恭助の考えのまま私もいま生きてます。

斜線堂 先ほど私が言った「ミステリーという形態が、物語を楽しませる最良のかたち」という考えも、そのあたりから来ているところがありますね。やっぱりジャンルにかかわらず、面白い小説には魅力的な“謎”があると思うんです。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版35号(2021年1月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年12月18日

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