私は高校時代、音楽部という名のミュージカル部に所属していました。「演技するのも歌うのも踊るのも好きだから何とかなるやろ」と思っていましたが、とんだ甘ちゃんでございましたね。
――振付、全然覚えられませんでした。
目の前でお手本として踊られた動きが、そもそも、全く理解出来ないのです。見たものが、自分の身体機能に繋がらないとでも言うのでしょうか。あっちが右手を上げたとして、咄嗟に自分のどっちの手を上げればいいのか分かりません。お手本に軽やかなステップを見せてくれても、何がどうなって足が動いているのかが頭に入って来ません。くるりと一回転するのは分かっても、「え、今足どっちを前にして回った? って言うか回る向きってどっち!? 時計回りって右向き? 左向き?」とごちゃごちゃになってフリーズしてしまいます。当然、格好よく踊るなんて夢のまた夢です。
当時の部活仲間からは「こいつヤベエな」という目で見られていたと思います。迷惑かけて本当すまんかった……。でも本人はふざけているわけでもサボっているわけでもないんだ……。
私にとって幸運だったのは、この部活の演目は一年に一つと決まっていたので、覚えるための時間だけはたっぷりあり、一度覚えてしまえば、後はそれを練習すればいいということでした。
動きを覚えるため、私は試行錯誤しました。
ダンスが得意な子に指導してもらったり、家に帰って自主練したりとあらゆる手を尽くしましたが、私にとって最も有効だったのは、結局、ノートに棒人間でダンスの動きを全て書き出すことでした。
「ダンス覚えるためにそんなことする!?」と驚かれたりもしましたが、これは抜群に効果がありました。私にとっては文字情報のほうが視覚情報よりもはるかに覚えやすかったわけです。
このメモさえあれば自主練習の時も「どうすれば良かったんだっけ?」とならずに済みましたし、一度動きを覚えてしまえば、あとは音楽に合わせてのびのび踊ればいいだけだったので、その後は楽しくダンス練に参加することが出来ました。
ただ、最初の頃の「ダンスが出来ない」という焦りは結構強烈だったようで、今でも「もう前奏が流れて緞帳が上がり始めているのに、次の動きが思い出せない」という悪夢を見ることがあります。
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