つい先日、群馬の実家にて、プロのカメラマンさんによる写真撮影が行われました。その主役は私ではなく、このコラム「第3回 うちの子になった野良」で紹介した元野良で茶白トラの愛猫、ニャアです。
「どうして猫の撮影!?」と驚かれるかもしれませんが、実はこの度、小説誌『オール讀物』の猫特集にて、ニャアについての諸々を寄稿させて頂くことになったのです。そこに猫と私の2ショットも必要ということで、わざわざ東京からご足労頂いたのでした。
現在は完全室内飼いとはいえ、もとは警戒心の強い野良猫です。当然、大きなカメラなどを見たこともないわけで、どんな反応をするのか、その時になるまで全く予想がつきませんでした。もしパニックになってしまったら撮影どころではありませんし、家族の間で事前に入念な打ち合わせが行われました。
以下は、家にいらっしゃる編集さんとカメラマンさんに向けて、私が書いて送った作戦指示書です。
(1)最初に猫が目に入っても無視して頂く
※多分リビングで寝ているので、あなたに用はありませんよ、という顔をして下さい。
(2)しばらくは猫を無視してお茶をして頂く
※他の部屋は閉め切っているので、一時逃げたとしても、おそらくは外が見たくて自分からリビングに戻ってくるものと思われます。このお茶の時間を使ってどのあたりで撮影すべきかを相談。
(3)窓際のお気に入りの場所で外を見ている所をすかさず撮影!
(4)警戒して近寄って来ないようなら最終兵器マグロを焼く
※マグロは用意済。匂いにつられて必ずやってきます。ごはんを食べて満足しているところをすかさず撮影して頂く。
(5)(1)~(4)で駄目なら、強制的に抱っこ!!!
※こちらが騒がずにいれば暴れずに抱っこさせてくれます。ただし普段あまり抱っこはしない上に体重が7キロもあるので、長時間は私の腕が無理です。時間勝負になります。
何度見直しても、二重三重にも案を重ねた完璧な作戦に思われました。
両親と共に準備万端で迎えた当日、駅でカメラマンさんと編集さんを出迎え、意気揚々と家に入った私は、猫の姿が見えないことに嫌な予感を覚えました。
何ということでしょう!
閉め切っていたはずの戸を自力で開け、ニャアは二階の窓辺で昼寝を決め込んでいたのです。ここで早くも完璧だったはずの作戦は破綻を迎えてしまいました。
しかもよりにもよって、ニャアが寝ているのは洗濯物を干す部屋です。父のトランクスやら私の腹巻やらはんてんやらが干してある部屋でまさか写真撮影を行うわけにもいかず、両親と私の三人は静かに阿鼻叫喚に陥りました。
「ヤダワア、ドアのたてつけが甘かったのかしら?」
とか言いながら、目と目で「いや、最後にあの部屋に入ったの誰!?」「俺じゃないぞ」「アンタじゃないの?」「断じて違います」と責任を押し付け合っていました。
しかし時間は待ってはくれません。
あらら、どうしましょうね、と困った顔のカメラマンさんと編集さんを前にして、おっちょこちょいな親子三人は再びアイコンタクトを交わしました。
「こうなったら、何とかしてニャアをご機嫌なままリビングに連れてくるしかない」
「ここは私達に任せて」
父と母の決然たる視線を受け、私は不安に思いながら、顔だけは笑みを浮かべてカメラマンさんに言いました。
「すみません。ちょっとお待ちくださいね! あの、きっとすぐ下りてくるので……」
内心で頼んだぞ、と思いつつ、(ニャアが下りてきてくれると仮定して)撮影場所の相談を行い、機材のセッティングを終え、編集さんとここしばらく出来てなかった打ち合わせをすることになりました。