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作家の羽休み――「第36回:深夜にチャイムを鳴らすもの」

作家の羽休み――「第36回:深夜にチャイムを鳴らすもの」

阿部 智里


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 当時、私は門限のある女子寮に住んでいました。宿泊や帰宅が遅くなる場合は事前に申請が必要でしたし、セキュリティはかなり厳しいほうだったと思います。管理人さんがいつもいらっしゃって、オートロックのエントランスは、カードキーを使わないと中には入れませんでした。

 私の部屋は1階でしたが、道に面したベランダ側には監視カメラがあり、外と廊下の間にはしっかりとした金属製の格子も取り付けられていました。

 とある夜のことです。

 自室のちゃぶ台でパソコンをいじっていた私は、ピンポーン、と明るいチャイムに飛び上がりそうになりました。

 何せ、この部屋のチャイムは使われること自体、滅多にないのです。

 寮内の友人達は、訪問する前に内線で都合を聞くのがいつもの手順でしたし、何か宅配があった場合も、エントランスから内線でこちらを呼び出す仕組みになっていました。

 この時、すでに時刻は深夜0時をまわっていました。

 友人達と会う約束はなく、宅配便が来るような時間でもなく、一体誰なのかと呆気にとられる私に向けて、ピンポーン、と再度チャイムが鳴らされました。

 思い当たる相手はいませんが、外部の人が部屋の前のチャイムを鳴らせるはずがありません。友人が何か急用があって訪ねてきたのかな、と思い直し、私は「はあい」と声を返して玄関に向かいました。

 ですが、時間が時間です。

 そのままドアの鍵を開けるには躊躇いがあり、まずドアスコープを覗き込み、私は唖然としました。

 そこには、誰もいなかったのです。

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