- 2021.10.07
- インタビュー・対談
ステイホームのお供に! 2021年上半期の傑作ミステリーはこれだ!【海外編&まとめ】<編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2021年の傑作をおすすめします。
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
【社会派リーガルサスペンスの力作】
司会 さて、そろそろ締めに入ろうと思いますが、みなさん、「これだけは」という言い残したイチオシ作品があれば、最後にお願いします。
T 国内作品ですが、雫井脩介さん『霧をはらう』(幻冬舎)は上半期の社会派ミステリーの収穫だと思います。『検察側の罪人』(文春文庫)の著者ならではの法廷もので、冒頭、江戸川区の小児科病院を舞台に点滴中毒死傷事件が起こります。同じ病室に入院している4人の子が、点滴を受けた後、容態が急変する。どうも点滴にインシュリンが混入されたらしく、4人のうち2人が死亡するという悲惨な結末を迎えます。そして、軽症で助かった女の子のお母さんが逮捕されてしまうんです。
こういうショッキングな設定って、ややもすると作り物めいてしまいがちなんですけど、被告人となるお母さんの造型がじつに見事で、読んでいる読者にも「やってそう」と思わせる、厚みのあるキャラクターなんですね。ふわふわしていて、どこか抜けているのにお節介焼きで、「病院が病気を作る」などと言っては勝手に子どもの点滴の速度を遅くしたり、ナースステーション内を無断でうろうろしてお菓子を配ったりしてるせいで、点滴に細工したと疑われてしまう。面白いのは、軽症だった女の子の実のお姉さんも、「うちのお母さん、やったんじゃないか」と疑っているところなんです。弁護団も意見がわかれているし……。
司会 オーソドックスなリーガルサスペンスだと、家族と弁護士とで力を合わせてお母さんの冤罪を晴らそうという展開になるはずなんですけど、肝心のお母さんは「私がやりました」とあっさり自白しちゃう。家族も「お母さん、やったな」と思い、「人殺しの身内としてどうやって生活していくか」と、自分たちのことで精一杯。お姉さんは大学進学を断念した上、入った会社でハラスメントにあうし、妹は事件の被害者でもあるのに嫌がらせで学校に行けなくなってしまって、たしかに裁判どころじゃない。こんな状態で、本当に無罪を証明できるのか? と、どんどんミステリーのハードルが上がっていくんですよね。
T 物語全体を通して「やってないっぽいけど、やってるかもしれない」という曖昧な空気が見事に醸成されていって、読者も最後の最後まで「本当にどっちに転ぶかわからないぞ」と感じるはずです。こういう先の読めないサスペンスを書かせたら、雫井さんはいまいちばんの書き手ではないかと思います。
司会 あまり言うと読者の興をそぎますけれど、人間ドラマのまま終わるのかと思いきや、最後に見事などんでん返しが決まります。ミステリーファンは要チェックです。
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