【ベテランの超絶技巧も健在!】

A 僕からも最後に1冊、太田忠司さんの『麻倉玲一は信頼できない語り手』(徳間文庫)を。前半の[国内編]で今年は若手の力作が目白押しという話になりましたけれど、ベテランだって頑張ってるよ、という意味で、若い読者にぜひ太田さんの存在を知ってもらいたいと思うんです。『僕の殺人』(徳間文庫)のようなトリッキーな新本格から、ジュブナイル、ショートショート美術館(文藝春秋/田丸雅智さんとの共著)に至るまで作風も幅広いし、何よりアイデアの豊富な書き手なんですよ。

『麻倉玲一は信頼できない語り手』(太田 忠司/徳間文庫)

舞台は近未来の日本。死刑が廃止されて28年がたち、63歳の麻倉玲一は“日本最後の死刑囚”なんです。死刑判決は受けたものの、直後に制度が無くなったため、運用上刑が執行されず、さりとて釈放もできないという終身刑状態のまま、民間委託された刑務所に収容されている。ある日、売れない作家のもとに「麻倉玲一の話し相手になってほしい。聞いた話を本にしてもかまわない」という依頼がもたらされます。作家は、孤島に建つ刑務所に麻倉を訪ね、1対1で彼のインタビューに臨むわけですね。

この麻倉の語りや、刑務所内の描写が抜群に面白くてどんどん引き込まれていくのに加え、タイトルからなんとなく想像できるように、最後にテーブルをひっくり返すようなサプライズもあります。練達の読み手でも「その手できたか!」と、ハタと膝を打つこと請け合いの1冊。全国の書店でプッシュされている銘柄でもあり、ベテランの技をぜひみなさんに楽しんでもらえたらと。

司会 結論としては、昨年に続いて今年、上半期だけを見ても、ミステリーは活況ということですね。

A 国内も海外も、読み切れないくらいの話題作が出ているよね。

K 麻耶雄嵩さんの名探偵シリーズ新刊『メルカトル悪人狩り』(講談社ノベルス)が10年ぶりに出たのもすごいし、長らく手に入りにくかった『夏と冬の奏鳴曲』新装改訂版(講談社文庫)まで出るとは!

H 新本格世代のベテランから、その影響を強く受けた世代、さらにその下の世代の書き手まで、そろって力作を発表する、充実の1年になりそうですね。

司会 ではまた年末~来年のお正月に、2021年をふりかえる座談会で集まりましょう!
 


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