![作家の羽休み――「第39回:思い出のお寿司屋さん」](https://b-bunshun.ismcdn.jp/mwimgs/b/0/1500wm/img_b0aad69d732b66a850cefa5b34713dc5109022.jpg)
お寿司を食べると、どうしても思い出してしまう味がある。
私は、生まれも育ちも群馬の田舎、いわゆる生粋の海なし県民である。
幼い頃、お寿司と言えば生協さんのパック寿司か、企業努力によって成り立っているチェーンの回転寿司しか知らなかった。どちらも美味しいし今でも大好きなのだが、ただでさえ我が家は一年に1、2回しか外食をしなかったので、俗に言う「回らないお寿司」とは非常に縁遠い生活をしていた。
![](/mwimgs/c/1/1000wm/img_c159ef6a3693ad3d20dfc1447cf44be6556212.jpg)
しかし、そんな私にはお寿司屋さんの親戚がいた。
遠い東京の地に店を構えており、私が5歳くらいの頃に一度伺ったらしいのだが、その時の記憶は曖昧だ。仕事で洋上研修に行く父を見送りに行った帰りであり、大好きな父と引き離されたことにショックを受け、ネズミのぬいぐるみを握り締めて号泣していたせいである。(※ちなみに父は10日後には元気に戻って来た)
よって、私がしっかりと意識のある状態でそのお店の暖簾をくぐったのは、大学入学で上京した際、「お祝いにごちそうしよう!」とご招待してくれた、18の春が最初であった。
母に連れられ、慣れない電車の乗り換えにひーこら言いながら辿り着いたのは、根津だった。昔ながらの町並みの中、静かにたたずんでいたお寿司屋さんこそが、「鮨処 八車」(すしどころ やぐるま)である。
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