その頃、私は「次の短編は冬ですね。何を書くかそろそろ考え始めましょうか」と編集さんの笑顔に迫られていました。『追憶の烏』を補完するような短編の案や、次の作品に繋がる形の短編の案はあったのですが、「このタイミングに出すにはどうもしっくりこないなー」と悶々としておりました。
それはそれ、これはこれとして、コミカライズの監修やら設定確認やらも同時に進めます。ちょうど漫画版『烏は主を選ばない』のほうはならず者のたむろする谷間を描いている頃で、コミカライズ作者の松崎夏未さんと色々お話をしていました。
その中で、澄尾は少年時代、鳥形になって小遣い稼ぎをしていたという話題が出まして、それを聞いた松崎さんが「それじゃ、宿場町の専門の人と縄張り争いとかあったんじゃない?」とおっしゃったのです。
それを聞いた瞬間、パッと宿場にいる若い頃の澄尾の姿が見えまして、「宿場と澄尾の組み合わせはこれまでの情報からは想像出来ないな。あれ、もしかしてこれで短編書けちゃうのでは?」と思いました。「とはいえ、前に想像にお任せしますって言っちゃったしなあ……」とちょっと迷う部分もあったのですが、松崎さんが「書けばいいのに!」と背中を押してくれたこともあり、編集さん達に「こんなのどうでしょう?」と提案する流れになりました。
結果、それがそのまま通りまして、「さわべりのきじん」として日の目を見ることになったのです。(舌の根も乾かぬうちに前言撤回してしまいすみません……)
いやはや、編集さんとの話し合いで新しい短編の案が出ることはままあるのですが、まさか松崎さんとの会話からそれが出るとは! 最近、何故か会話のついでに原稿の取り立てをしてくることもあって、時々彼女が編集さんに見えることがあるのですが、とにかく松崎さんがいなければ「さわべりのきじん」は生まれませんでした。この場を借りて、深く御礼を申し上げます。松崎夏未さん、本当にありがとうございました! あの時は「次は無理でもいつか書ければ」みたいなノリでしたが、最速での発表となりましたよ!
ちなみに、内容的に「ゆきやのせみ」に似ているなと思ったので、最初は「すみおのかわむし」と銘打とうと考えておりました。が、厳密には澄尾は川虫を食べていませんし、題名が出た瞬間にオチがついてしまうので却下しました。今思うと「すみおのかわむし」も可愛くて良かったかなぁとも思うのですが、読者の皆様はどう感じられるのでしょう?
ご興味のある方は、是非手に取ってご確認頂ければ幸いです。
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今年もたくさんの応援を頂き、本当にありがとうございました!
中々個別にお返事は出来なくなってしまいましたが、メッセージやお便り、いつもとても有難く、心強く拝読しております。来年も、より皆さんにお楽しみ頂ける作品を(なるべく早く)お届け出来るよう頑張りますので、どうか引き続きよろしくお願いいたします。
どうか皆様、良いお年をお迎え下さいませ!
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc
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