私は以前柔道をやっており、そこで膝を負傷したことがありました。当時は軽い手当をしただけで「何とかなった!」と思い込んでいたのですが、実際は何とかなっていなかったようです。
昨年、『追憶の烏』の原稿の〆切が差し迫る某日、床から立とうとした瞬間にいきなりコキン! と軽快な音を立てて膝が崩れ、私は歩けなくなってしまいました。動いた振動だけで冷や汗が出て来ます。いくらにぶちんの私でも「コイツぁやべえ!」と悟らざるを得ませんでした。近場でいつもお世話になっている整体があったので、とにかく一回状態を見てもらおうと思ったのですが、いつもなら10分で行ける距離が永遠に感じられるほどの痛みです。
――たった今思い出したのですが、全く同じことを足の指の爪をアレした時 にも思いましたね。
あの時も近場の病院に徒歩で向かったら、痛いし苦しいしで、いつもの5倍くらい時間がかかり、諦めて帰りはタクシーを使ったのです。包帯巻いた足で「こんな近距離ですみません」と謝ったら、タクシーの運転手さんはドン引きした顔をしつつも「いいよいいよ、そういう時こそタクシー使ってよ」と言って下さり、「なんて優しいんだ!」と感動したのを覚えています。ただし感動しただけで学習はしていなかったようです。
冷静になった今なら「馬っ鹿野郎、 背に腹は代えられないんだからよ、最初からタクシー頼んでおけ!!」 と声を大にして言えるのですが、とにかく当時は「なんかヤバそうだけど鍼とか打ってもらったら治るかも!?」と正常性バイアスにかかった状態にありまして、這う這うの体で整体に向かったわけです。そして先生に「いや、これ整体じゃなくて病院行った方がいいよ、絶対」と言われてしまったのでした。
その日はもうそれ以上動けず(体力を使い果たして動きたくなくて)、タクシーをお願いして帰宅したのですが、困ったことになりました。
その翌日、どうしても外出しなければこなせない仕事があったからです。
この時点で自力で何とかすることを諦めた私は、文春の編集さんに「HELP!」しました。
コラムで何度も書いたように、この編集さん達は、缶詰中に目にマニキュア入れたり(第16回「マニキュア事件」)、ドアに足を挟んで爪を剥がしたり(第52回「粗忽者と対策」)、イベント中に靴擦れで動けなくなったりする私の介護においては、経験値をやたらと積んでいる猛者です。
内心では「この〆切の迫ったタイミングで何やらかしたんですか!」と悲鳴を上げていたでしょうに、表向きは慌てず騒がず優しく完璧に対応して下さり、外出の件はなんとか無事に終えることが出来ました(傘はうまく使うと杖替わりになるので、いざという時のために折りたたみ傘以外も持っておいたほうがいいですね……)。
しかし、このまま帰宅しても日常生活すらままならないのは明らかです。相談の末、一度実家に戻されることになりました。
編集さんに介助されながら電車に乗り込み、親に駅まで迎えに来てもらい、地元の良い病院に連れて行ってもらって検査をした結果、ようやっと膝の靭帯が「あちゃ~」なことになっていると判明したのです。
いや、皆さん、古傷が痛むことがあったらなるべく早めに病院で検査したほうがいいですよ! 私の膝の場合、たまに痛くなるけどそのうち治る、というのを繰り返していたのですが、先生に言わせると靭帯がちょっとずつ切れていっていただけで、決して治っていたわけではなかったようです。
これは私の反省ですが、学生時代の部活の時とか、痛みがあって休むと「何サボっているんだ」みたいな目で見られるのが嫌で、ついつい「平気!」とやりがちでした。しかし自分の痛みが分かるのは自分しかいないのですから、堂々と痛みを主張し、堂々と休み、ちゃんと病院に行くべきでした。「これくらい我慢出来る!」と意地を張った結果、周囲により多くの迷惑と心配をかけてしまったので、めちゃくちゃ後悔しています……。もしこれをお読みの方で似たような状況の方がいらっしゃったら、さっさと病院に行くことを心からお勧めします。閑話休題。
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