☆前回までのあらすじ
〆切ぶっちぎっている最悪のタイミングで膝の古傷が悪化して1か月も入院することになったぞ! 無事に『追憶の烏』の原稿は仕上がるのか――!?
検査後、実際に入院するまでには少し時間があったので、私はなんとか手術までに出来ることを終わらせようとあがいていました。
ここで、ちょっとだけ原稿が本になるまでの用語を説明させて頂きます。
興味のある方は各自詳しく調べて頂くとして、原稿を売り物としての本にする最終段階には「ゲラ作業」という、「こんな風に印刷して本にするけど大丈夫?」と確認する作業があります。このゲラ作業を繰り返して、ようやく出版物になるわけです。「こんな風に印刷して本にするよ!」という試し刷りの束は「ゲラ刷り」といい、単にゲラとも呼びます。
本来は誤字脱字のチェックのためのものですから、原稿は当然完成していると思われるでしょう?
これが違うんですね。
いや、世の清く正しい作家さんの中には、校閲さんや編集さんが指摘してくれたミスや疑問点を解消するだけでゲラ作業を終わらせる方もいらっしゃるのでしょう。
しかし残念ながら、私は〆切を破る悪い作家です。
しかも、まさかのゲラ作業で未完成の原稿を完成させようとする極悪人です。
いつもそうなんです……。毎回ゲラの段階でめちゃくちゃ書き直すことになるんです。
拙作で誤字脱字があるのは、ギリギリまで書き直しているせいでして、これまでの担当編集さんはさんざん苦しめられてきました。本当によく見捨てないで付き合ってくれるなと我が事ながらしみじみ思います。
それに加えて、『追憶の烏』はコミカライズ『烏は主を選ばない』2巻と同時刊行でした。
コミカライズのほうは完成していたので発売日はすでに決まっており、もう1日もずらせないという日程の中でゲラ作業を行うことになったのです。
いつも以上に未完成の部分が多く、マジでハアハア言いながらゲラに赤字をびっしり書き込み、徹夜しても間に合わず、幻覚の悪魔が「お前プロを名乗る資格ないよ」「こんなレベルの本を出したほうが世界にとって害悪じゃない?」「いっそ高飛びしちゃえよって思ったけどそういえば今お前動けないんだったな超ウケるキャーハハハッ!」と囁くどころでなく大笑いを始めていました。
全く終わりが見えず、「もう駄目だ……」と本気で思った時、救いの手が差し伸べられました。