- 2020.08.07
- インタビュー・対談
夏休みの読書ガイドに! 2020年上半期の傑作ミステリーはこれだ! <編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2020年上半期の傑作をおすすめします。
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#エンタメ・ミステリ
虐待を描いた社会派ミステリー
AK 文春の本からも1冊、天祢涼『あの子の殺人計画』を紹介しましょう。母子家庭の貧困、母親による娘への虐待が描かれていく社会派ミステリーです。ご存じのように天祢さんはメフィスト賞作家で、デビュー作『キョウカンカク』は、共感覚をほとんど超能力の域にまで高めた「音が見える」美少女探偵が猟奇殺人犯に挑む、いかにもメフィスト賞らしい作品でした。ところが、天祢さん自身は必ずしもメフィスト賞っぽいキャラではなく、とても真面目な人。社会的なテーマを定めて、かっちりしたミステリーを書きたい気持ちがあって、3年前、子どもの貧困を描いた『希望が死んだ夜に』を書いた。これは女子中学生版『半落ち』ともいうべきミステリーなんですけど、このとき登場した少年係の刑事をふたたび探偵役にして、『あの子の殺人計画』が書かれたわけです。
先ほど、人工的な設定の架空世界を舞台にしたミステリーが多いという話がありましたけど、確かにいま、リアルな社会問題をミステリーの題材にしにくい状況がある。そんな中、あえて社会派ミステリーを書こうという作者の意欲と、創意工夫を味わってほしいと思います。たとえば本書では、虐待というものがもつ本質を、ミステリー的なある仕掛けによって浮かび上がらせようとしている。
H ちいさな女の子が虐待されるので、読んでる間、ずっとしんどい話なんです。ところが、終盤のあるひと言によって、絶対に同情できないキャラクターに同情できてしまう瞬間が訪れる。そういう感情を喚起できる描写力もすごいし、何より本書のトリックがその感情の喚起にダイレクトに寄与しているのは、よく考えられているなと思いました。
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