- 2020.08.07
- インタビュー・対談
夏休みの読書ガイドに! 2020年上半期の傑作ミステリーはこれだ! <編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2020年上半期の傑作をおすすめします。
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
ピクニックに行くように楽しめるミステリー
A 私からは「このミステリーがすごい!」大賞受賞作、歌田年さんの『紙鑑定士の事件ファイル』(宝島社)を。主人公の渡部は紙の専門家で、どんな紙でも瞬時に見分けられる紙の鑑定士なんですけど、「紙鑑定」を「神探偵」と勘違いした依頼人が「彼氏の浮気調査をしてほしい」とやってくるという、ユルさがたまらないミステリーです(笑)。精緻なミステリー空間にしびれるのもいいけれど、たまには遊びがあるものをじっくり楽しみたいと思ったときにピッタリの1冊ではないでしょうか。渡部は「僕は(探偵ではなく)紙屋が本業ですよ」と謙遜しつつ、ちゃっかり依頼を引き受け、手がかりに残されたわずかな紙片を見つけては「銘柄は〈マーメイド〉だろう」とたちどころに指摘したり、ディテールからいろんな事実がわかっていくのが楽しいんです。
メインの事件で出てくるジオラマを分析するために、渡部は伝説のモデラー(模型製作者)に協力を依頼するんですが、このモデラーのおじさんがまたいいキャラで、蘊蓄やジオラマの読み解きがものすごく深いうえに、おじさん二人のかけあいが最高! 作者の歌田さんは元出版社勤務で資材部の経験もあり紙に詳しい上に、ご自身がプロのモデラーでもあるんです。そのマニアックすぎる専門知識が、編集者歴25年のバランス感覚によってあんばいよく読者に開陳されていく。ピクニックに行くようにミステリーを楽しめる1冊です。
H 小林泰三さんの『ティンカー・ベル殺し』(東京創元社)についても少しだけ。『アリス殺し』に始まるシリーズ最新作で、物語世界の夢ばかり見る大学院生が主人公ですが、今回の舞台はピーター・パン。あちらの世界の人物が現実世界のどの人と対応するアバター関係なのかという謎がシリーズを通してずっと存在し、読者の側も身構えて読んでいるのに、「その手があったか!」とずらしてくるのはさすがの技。3作かけて積み重ねてきた世界のルールを逆手にとって、うまいなあと感心させられる仕上がりになっています。童話の世界が本来もっているダークさをきちんと描いているのも魅力ですね。
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