- 2020.08.07
- インタビュー・対談
夏休みの読書ガイドに! 2020年上半期の傑作ミステリーはこれだ! <編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2020年上半期の傑作をおすすめします。
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
【海外編】
司会 では、翻訳ミステリーに行きましょう。AKさんからお願いします。
AK ブラッドリー・ハーパー『探偵コナン・ドイル』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)が面白かったですね。ちょうどドイルがホームズの第1作『緋色の研究』を刊行した直後、ロンドンで切り裂きジャック事件が起きているんですけど、そのドイルがある日、前首相グラッドストーンから「ホームズの推理法を用いて事件を解決してほしい」と依頼を受ける。ドイルは一人では不安なので、ホームズのモデルにもした師匠のジョセフ・ベル博士に協力を求める。また下町の人々の暮らしに詳しい女性作家が案内役につくんですが、これがマーガレット・ハークネスという実在の作家なんですね。この3人がトリオで切り裂きジャックに挑むという趣向で、ミステリーなんですけど、文芸的な香りのある重厚な物語でもある。これまでも散々描かれてきた切り裂きジャック事件ですが、本書の提示する犯人像はかなりユニークで、なぜ切り裂きジャックがロンドンに誕生したのかという謎に答えている。ホームズを絡める必然性がちゃんとあるんです。
H いま、この時代のコナン・ドイルを描くならば、彼とジェンダーの問題は切っても切り離せないと思うんですが、ジェンダーと切り裂きジャック事件とを実にうまく組み合わせて書いています。また、原典の様々なエピソードが上手にちりばめてあって、「あ、この話がホームズのあのエピソードにつながるんだな」とわかるので、ホームズファンは必読ですね。マーガレット・ハークネスもよく描けていて、まるで本当に、ドイルはマーガレットをもとにしてアイリーン・アドラーを創造したのではと思わされるほどです。
N 最近、アメリカのミステリーは文芸色を強めていて、歴史を題材にもってくるケースも多いんですが、その好例ですね。ハークネスさんのような女性が活躍するのもアメリカのミステリーのトレンドです。切り裂きジャック事件ですから、たくさんの娼婦が描かれますが、セックスワーカーの扱いが比較的フェアなのもアメリカらしい。このへんの女性の描き方は、日本のエンタメよりもずいぶん進んでいると感じます。
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